一時帰国中は家族の世話に追われてブログを書く余裕がなく、羽田便で観た映画についてのブログを書けるようになったのが、ロンドン便の中...で2週間以上遅れてしまった。というわけでクリスマスイヴのロンドンー羽田便で観た映画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)、『君は放課後インソムニア』(2023)、そして地元キャッスル・シネマで長く上映が続いた『Past Lives/パースト ライブス 再会』(2023)。 クエンティン・タランティーノ監督の映画『ワンス・アポン・ア・タイム…』は仕返しの場面で容赦なく、殆ど惨殺に近い描写に辟易した。『君は放課後インソムニア』はアニメで見て話は知っていたが、実写は更にリアルで悪くない。恐らく現地石川県でロケしたであろう場面(特に遺跡)とか、高校にある天文台とか、背景は記録としても貴重だと思う。特に石川県は震災の影響もあるだろうことを考えると余計に…その前面で繰り広げられる青春像も現代らしく控えめで繊細。ただ、作品としてのパワー(迫力)が他二作より弱く、この三作の中で記憶に一番残ったのは『Past Lives/パースト ライブス 再会』(2023)だった。

 

 とはいえ、『Past Lives』のIMDbの高評価8.0には若干韓国に対する西洋側のオリエンタリズム入ってない(?)と訊きたくなる。特に根底にあるコンセプトは日本ではお馴染みの「縁」。東アジアでは説明するまでもないが、ヨーロッパ人やアメリカ人にとっては恐らく「オリエンタルなコンセプト」で新鮮なのだろう。おまけに幼馴染との数十年ぶりの再会という話もややあり勝ちな展開で、映画好きの友人曰く「Sorpy(日本語ならメロドラマ的か?)でつまんなかった」という評価にも納得する。さて、あらすじは…

 

 韓国の少女ナヨンと少年ヘソンは仲が良い友達。放課後よく一緒に歩いて帰宅する。ナヨンは両親とともにカナダに移り、その後ニューヨークへ。ヘソンは韓国に住み続け、大学では工学を学び、短期間の兵役を経て就職。二人はビデオチャットを通じて定期的に連絡を取り合い、過去や一般的なことについて話し合う。一方、ニューヨークで、ナヨンは名前をノラに変え、劇作家として名を上げ、ユダヤ系アメリカ人のアーサーと幸せな結婚生活を送っている。ヘソンはノラに会いたくて、ニューヨークにいるノラを訪ね、彼女とアーサーと一緒に時間を過ごすが...ノラとヘソンの関係にはどんな未来が待ち受けているだろうか?

 

 要約すれば「上昇志向が強い女性主人公がニューヨークで活躍し、子供の頃好きだった故郷ソウルの男の子に20年ぶりに会う」と書くと身も蓋もないかもしれない。ただ、その背景にはナヨンの父は世界的に名の知れた映画監督、母はアーティストという具合に外国住まいがしっくりくること、また韓国では移民となって海外に出るのは割と良くあることなど。昔、英大学院で韓国人の友人は「韓国社会では自国での学位はほとんど通用しない」と言っていたし、アカデミー賞をとった パラサイト 半地下の家族』 でも米大学の卒業証書を偽造する場面があった。なので、ストーリー的に自然な流れだし、恐らく原作者であるセリーヌ・ソン監督の経験に近いのかも。

 

 また、ナヨンが夫のアーサーと出会うのは芸術家にある程度長い間集中して作品に取り組めるよう助成団体が援助するシステム。私も画家の友人から以前似たようなシステムに応募を勧められたことがある。彼女は実際経験があってヨーロッパ(確かスイス)に「一か月滞在し、集中できた」と聞いた。なのでこれも原作者の経験かも。というように設定自体は地に足がついている。ただ、どうしてもザラっと逆なでされたのが、ナヨンのある種の要領の良さ。そもそも「芸術家村での出会い」もそうだし「ビザが切れる前にアメリカ国籍のアーサーと結婚して配偶者ビザ取得」とか、「ニューヨークの劇団で脚本家として独り立ち」とか。そういうことが難なくできてしまう人が故郷の韓国に留まって普通の暮らしをするヘソンとはどこか合わないのを「縁」と解釈するのは違うのではないか。どちらかと言えば根本的な「性格の不一致」では? と、色々モヤモヤと考えてしまう意味で印象深い映画であることは確か。