今年の秋は学会発表でオランダのデルフトに、ピアノリサイタルを聴きにパリへと飛び回っている間にもうクリスマスイヴ。ヒースロー空港ターミナル2で羽田便を待っている間にやっとブログを書く余裕ができた。取り敢えず、先にパリ市建築博物館アルセナル館について備忘録として残しておこうと思う。Pavillon de l'Arsenalの場所はこちら。地下鉄Sully-Morland駅の直近、Bastilleからも徒歩7分。
 
 この博物館は パリ大都市圏の建築・都市計画に関わるアーカイブ、展示企画、コンペ実施等を目的として1988年に開設された総合的な建築博物館 *。なのに今年になるまで不勉強なのとフランス語が分からないせいもあって、全く知らなかった。たまたま宿を予約したときに近くに「Centre for Urban Architecture」という英語が目に入ったのだ。前にトロカデロにある City of Architecture and Heritage /シテ建築遺産博物館を訪問したことはあって、フランスの建築史に関する知識不足を痛感。木造プレハブや工業化建築で名高いジャン・プル―ヴェが最も重要な仏出身建築家であるらしいことを知った (ル・コルビュジェはお札にもなっているようにスイス出身)。しかし、まさか他にも建築関係の大規模博物館があるとは予想外。ただ、よくよく考えればロンドンの都市史と並行して、パリの都市史も注目に値することは確か。近代になってからオスマンのパリ大改造、ミッテランのデファンス地区開発など政治家による都市開発も盛んだし。
 
 で、今回の訪問で衝撃だったのは、フランスは2000年以降公共住宅カウンシル・ハウスの建設を着々と続けていた、という事実。2014年までに136万戸を建設をしたらしい。日本人の建築家も隈研吾ほかかなりの人数が協力している。パリ市は2030年までに30%を公共住宅にする予定だという。(ロンドンでも公共住宅はまだ60%を占めるらしい。) フランスは共産党が強いだけあって、新自由主義が吹き荒れはじめた2000年以降にも地道に公共住宅を建設し続けていたとは恐れ入った。貧困層増加を見越していたとすればこれぞ政治家が成すべき仕事である。私服を肥やすことばかりにかまけてきたどこかの国とは大違い。イギリスでも1980年代のサッチャー政権による、テナントに公共住宅を分譲する「Right to buy」政策以降新たなカウンシル・ハウスの建設など全く考えてこなかったと言える。ロンドンの住宅開発や都市計画について何冊も本を出版している同僚にも話したところ「フランスでは今でもカウンシル・ハウスを建設し続けているの?」と驚いていた。フランスの建設費の財源はどこから出ているのだろうか? もう少し突っ込んだ調査が必要なようだ。出生率の高さも含めまたも「流石、革命を起こした国は違う」と新たな驚きだった。

 *日本建築文化保存協会 (2018) "パリ・アルセナル館建築博物館館長アレクサンドル・ラバス氏を囲む ラウンドテーブルへのお誘い", available at: <https://archi-depot.or.jp/ja/archives/1420>  , accessed 24/12/2023


 
 
デザイン重視だが、何れもカウンシル・ハウス
 
クリスチャン・ド・ポルザンパルク設計のホテル
Pavillon de l'Arsenalの外観。Arsenalとは兵器庫のほか兵器工場の意味がある。

内部はちょっと駅舎のような感じ。一階はパリの建築史を学ぶ展示と企画展。