ハックニーピクチャーハウスでIMDbの評価が7.7と高かった『The Eight Mountains / 帰れない山』(2022)を観た。昨夏南アルプスでトレッキングをしたので、「アルプスで撮影された映画」という説明とIMDbの評価だけで何も知らずに映画館へ。で、ドイツ語の映画と思い込んでいたが実はイタリア語の映画だと映画館に着いてから知り、こんなことならイタリア人の友達と観に来れば良かったのに、と大後悔した。しかも、映画館では大画面テレビの4倍くらいの一番小さいスクリーンでがっかり。山の映画なのだから大スクリーンで見なければ意味が無いのに。もっと映画館の詳細も検討してから映画を選ばなければいけないと反省した。さて、本作はイタリアでのいわば芥川賞と直木賞同時受賞のパオロ・コニェッティの同名小説の映画化で2022年カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した映画。監督はフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン とシャルロット・ヴァンデルメールシュの共同。あらすじは…

 
 ピエトロ(ルカ・マリネッリ)とブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)が初めて出会ったのは1984年二人が12歳の頃。トリノから来たピエトロの家族はアルプスの麓にある小さな村で夏の休暇を過ごしていた。成長するにつれ、ピエトロはビジネス志向の父親ジョヴァンニ(フィリッポ・ティミ)と疎遠になるが、一方ブルーノは実父に見捨てられ、ピエトロ両親にとっての息子の代理役を引き受ける。ジョヴァンニの死をきっかけに大人になった二人は再会し、アルプスに小屋を建てるという父の夢を実現することになる。この計画と荘厳な山脈の探検を通じて、ピエトロとブルーノは共通の目的のもとで新たな絆を結ぶ。それにもかかわらず、無垢な自然と社会的要求の両方によって、二人の人生は取り返しのつかない、分岐した道を各々追求するように駆り立てられる…(IMDbより翻訳)

 

 見終わった後で暫し人生や親との関係について考えてしまうが、アルプスを旅してきたような清涼感がある映画。なにしろ全編を通してアルプスと後半ピエトロが旅行で訪れるヒマラヤの絶景が圧倒的。大自然を前にすると人生が如何にもちっぽけに見えてきてしまう。それでも、村を出たいのに出られない牛飼いのブルーノが気の毒。ジョヴァンニは優秀なブルーノを見込んでピエトロと同じ都会の高校で教育を受けられるよう金銭的にも支援することを彼の叔父と交渉し承諾を得るのに、煉瓦職人の実父の反対で全てが水泡と帰するから。両親と疎遠になったピエトロの穴を埋めるかのように、ブルーノが彼らと交流を深めるのも、また早逝したジョヴァンニの霊を慰める記念碑のように二人で小屋を建てるのも自然で説得力がある。子供の頃の場面では3月に観た『クロース』(2022)を思い出したけれど、今回は都会と田舎(でも自然は雄大)、階級差という二項対立が軸なので色合いは異なる。

 

   ところで一点だけ気に入らないことがあった。ジョヴァンニはトリノの工場技術者としか紹介されないけれど、フィクションなのだからその工場には屋上に試運転用の1kmトラックを冠する名建築FIATの自動車工場Lingottoを使えば良かったのに。今は改修され、関西国際空港ターミナルで名高いレンゾ・ピアノ設計でショッピングモールやトリノ工科大学に用途変更されているが、トラックは現存するとか。両監督ともベルギー人だから知らなかったのか?フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督、ティモシー・シャラメ主演の『ビューティフル・ボーイ』(2018)も今BBC iPlayerで視聴可能なので、観てみよう。

 

本編抜粋と予告編