BBCとHBO制作のTVミニシリーズ『2034 今そこにある未来/ Years and Years』(2019、全6話) を観た。2019年から2034年までの近未来のマンチェスターに住む一家族と同時期の政治状況を描いたドラマ。ドナルド・トランプが大統領2期目を勤めたパラレルワールドで、英国版トランプとも言えるヴィヴィアンをエマ・トンプソンがコミカルに演じている。


  第一話からトランプが中国に建造された軍事人工島に核爆弾を投下し廃墟になる、というぶっ飛びの展開(そのせいで中国では放送禁止)。しかもマンチェスターの仲良し家族ライオンズ家の面々が個性的。(ライオンズはリチャード一世 獅子心王の紋章やそれを使ったイングランドチームの「3頭の獅子」から。) 男女二人ずつの四兄妹が90歳越えの母方の祖母の誕生日に毎年各々の家族を引き連れて集まる。両親は離婚後母は死亡、父とは疎遠という設定。あらすじは…

 

 大人になっても親密な関係を保っているライオンズ四兄妹。財務顧問で愛情深く家族思いの長男スティーブン(ロリー・キニア)は混沌とした私生活に追われる。 政治活動家でテレビにも出演する有名人の長女イーディス(ジェシカ・ハインズ)。公務員で住宅担当官の次男ダニエル(ラッセル・トーヴィー)は、夫ラルフが結婚すべき相手ではなかったことに気づく。次女ロージー(ルース・マデリー)は車椅子を駆使して楽しいことを愛するシングルマザー。そこに彼らの伴侶や子どもたちと四兄妹の祖母ムリエル (アン・リード) が絡む。現実的かつ荒涼とした未来を背景に元実業家ヴィヴィアン・ルック(エマ・トンプソン)が大衆を扇動し政治家となって英国首相の地位を手に入れるのであった。

 

 脚本及び監督のラッセル・T・ディヴィスによる予言が凄い。2019年に完成したドラマなのにロシア軍に追われEUに殺到するウクライナ難民や猿から発生した伝染病の難民キャンプでの流行を描く。何より恐ろしいのはいつ何時この状況に転落するかわからないくらい世界は不安定だと暗示していること。また、スティーブンの娘ベサニー(リディア・ウェスト)は両親が勘違いしたようなトランスジェンダーではなく(!)「トランスヒューマンとして生きたい」と身体をデジタル化していく様子がリアル。これまで身体を無くしてデジタル化しトランスヒューマンになるアニメは押井守監督の『Ghost in the Shell 攻殻機動隊』(1995)をはじめ『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012-)などで見たことはあるけれど、実写ではあまりないかも。如何にも今大学で教えているZ世代が言い出しそうな事でその衝撃にスティーブン夫妻と同様に愕然とした。マスクに慣れた彼らならデジタル仮面(Live face filter)も使いこなしそう。今の若手アーティスト/シンガーの中には素顔を見せない人も居るし。ラッセル・T・ディヴィスの感度の鋭さに圧倒されっぱなし。一方で、ディヴィスはこの作品の前に男性パートナーを亡くしたとか。物語にも反映されていてとても切なく心に響く。私の上司二人を含むゲイカップルが当たり前のロンドンに居ると日本の政治家や取巻きの差別発言には隔世の感があるというか、半世紀前のような時代遅れと感じる。1970年代のイギリスならああいう発言もあり得たかもしれないけど…

 

予告編 フェイスフィルターに両親びっくり。

 

労働者階級的な話し方にしているトンプソン。ポピュリストに政治を丸投げするとどうなるかの一例。