コリン・ファレル主演『スリー・ビルボード』(2017) のマーティン・マクドナー監督による『イニシェリン島の精霊 / The Banshees of Inisherin』(2022)をフィンズベリー・パーク・ピクチャーハウスで観た。前評判が高く、IMDbの評価が8を超える作品はそう多くないので、見逃してはいけないと思い英語版予告編を見たところ、英語のアクセントが強くて全く意味が判らない。折角なので英語字幕付きの放映を探したところ、徒歩圏内ではないけれどフィンズベリー・パーク・ピクチャーハウスが見つかった。さすがに字幕があるのでほぼ意味は掴めたと思うのだが、『スリー・ビルボード』にも通じる結構エグい話で見終わってから辟易とした。観賞後の感じが良い作品が好みなので、ハッピーエンドになるのではと期待したのだが…あらすじは…

 

 アイルランド西部の離島を舞台に、長年の友人であるコルム(ブレンダン・グレッソン) から主人公のパドリック(コリン・ファレル)は突然絶交を告げられて、二人の友情は袋小路に追い込まれる。唖然としたパドリックは妹のシオバン(ケリー・コンドン)と変わり者の若者ドミニク(バリー・コーガン)の助けを借りながら、二人の関係を修復しようと努めるが、コルムの態度は変わらない。しかも、パドリックの度重なる努力はかえってコルムの拒否を強めるばかり。コルムがパドリックに絶望的な最後通告をした後に事態は急速にエスカレートし、衝撃的な結果がもたらされるのだった…(IMDbより翻訳)

 
 時はアイルランド本土が内戦中の1923年、島民全員が顔見知りで単調な日々が続く小さな島で、ある日突然こんな目に遭ったパドリックがかなり気の毒に見える。気の良いパドリックがつまらない男なので彼と話をする時間を自分の作曲などの創作活動に充てたいとコルムは言い始める。確かに読書家で向上心もあり何でもできる妹に比べると何も考えてなくて毎日午後はパブでギネスビールを飲むばかりの兄は退屈ではある。ただ、だからと言ってここまで嫌うことも無いのに…と不条理感がハンパない。コリン・ファレルの太い眉が困ってハの字になっているのがちょっとコメディぽくもあるけれど。何しろ二人の対立が凄い緊張感なので飽きさせないし、展開が予想外なので衝撃を受けっぱなし。しかも、最近自分が丁度パドリックのように友人から距離を置かれたような感じがして妄想的になっていたので、初めは彼にとても同情した。島の閉塞感も十分に伝わってくる。でも…
 
 もしかするとパドリックと同様に私も映画の底に流れる本当の意味が判っていないのかも知れない。(町山智浩によれば、男性二人のいがみ合いはアイルランドの内戦を象徴しているとのこと)。【追加】岡田斗司夫の動画で初めてパドリックの設定が知的障害者/retardedであることを知った。だから妹のシオバンも彼を置いて島を出て行ってしまうのだ。自分がシオバンに無意識に共感した理由もこれか、と分かった。コルムが己の指を切る理由もキリスト教的には、本来ならば弱き者の面倒を見るべきなのにそれを放棄した自分を罰しているのかもしれない。
 
 平屋で石を重ねて30センチくらいの分厚い壁で作った家やパブは20世紀初め頃の貧しいアイルランドの島っぽさを醸し出している。ロバや馬などの動物がどんどん家の中に入ってきてしまう場面に戸惑うけれど、よくある話なのはSNSなどで知っていた。ところでBansheeとは泣き叫ぶ女性の妖精のこと。同じ島の話でも『ガーンジー島の読書会の秘密』の方が好み。
 

コルムが何故自分の指を切り落とすなどという暴挙に出るのか、理解不能。

 

この動画を観て初めてパドリックの設定が分かり、話の全貌がはっきりした。