ピカデリー・サーカスを南下しセントジェームズパークに面するICA (Institute of Contemporary Arts) でスペイン/アルゼンチン映画の『オフィシャル・コンペティション(邦題未定)』(2021)を観た。アルゼンチン出身Gastón DupratとMariano Cohnの共同監督。たまたまBBC ニュースで公開中の映画評をみてこの映画の背景である建物が気になったのと主演がスペインを代表するアントニオ・バンデラスにペネロペ・クルーズなので映画館でみたいと思った。おまけに ICAでは夏のセールで9月初めまで10ポンドに割引中。パンデミック以降ずっとご無沙汰だった映画館でもある。イタリア人の友人はスペイン語も分かる (遠い方言位の違いらしい) ので一緒に行くことにした。でも20時40分開始と遅いせいか、ニュースの影響もなく客席はガラガラ。近頃新しい映画館が増えてきたので、スクリーンも小さく椅子も古いICAは、10ポンドに割引しても観客が来ないのかも。さて、あらすじは…

 

 名声と社会的評判を求める億万長者のビジネスマンが、ユニークで画期的な映画を作ることにした。この目標を達成するために、彼は最高の人材を雇う。有名な映画作家のローラ・クエバス(ペネロペ・クルーズ)と、莫大な才能と巨大なエゴを誇る有名俳優二人、ハリウッドスターのフェリックス・リベロ(アントニオ・バンデラス)と年老いた舞台俳優のイヴァン・トーレス(オスカル・マルティネス)で構成される素晴らしいチームだ。二人はレジェンド的俳優だが、仲が良いわけではない。ローラが設定したリハーサルを通じて、フェリックスとイヴァンはお互いだけでなく、彼ら自身が築いてきた足跡にも立ち向かうことに… (IMDbより翻訳)

 

 映画制作の内幕を描写した映画だが、個性の強い主役三人の丁々発止が強烈。展開に巻き込まれて結末が読めなかったので、夜遅かったにも関わらず寝ないで済んだ。ただ役者二人を限界まで追い込むためのローラのパワハラが酷い。中でも工業用シュレッダーで彼らがこれまで受賞してきたトロフィーや楯やらを破壊する場面はショックで忘れられそうにない。人間は評価の代替物を案外大切に思って、心の支えにしているものだ。5トンの岩を頭上に見上げながら演技なんかできないという状況にも共感する。ローラのパワハラを笑えるかどうかで映画の評価は分かれるかも。

 

  ところで目当ての背景建物はPicado-De Blas設計のサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル劇場とオーディトリアム(2005年完成)。サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアルはマドリッドから50kmに位置し世界遺産の修道院で有名な街。でも、リハーサルが繰り返される青緑大理石の壁がある部屋は「セット」とあるウェブサイトにあった。大理石の途中に障子のように見えるガラスブロックを組み込んでいて構造的にどうやって作ったのだろうか?と疑問に思っていたら「セット」か〜。これだから映画は当てにならない。でも、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナパビリオン風の壁配置とモダニズムの斜めに伸びていく空間を作っていて上手い。また、サンティアゴ・カラトラバ設計らしき橋も出てきて、イタリアの実家の傍に「(カラトラバ設計の)変な橋が出来た」と怒っていた友人と顔を見合わせて笑った。サン・ロレンソ…の街に行きたくなったので映画のロケーション・ハンティングにも好感が持てる。

 

まだ日本語版の予告編が見当たらないので英語版