ハックニー・ピクチャーハウスの月曜割引でデヴィッド・リーチ監督『ブレット・トレイン/ Bullet Train』(2022)を観た。この映画館では約300席の最大スクリーンだったが、観客は割引日の夕方なのに多分10人程度。あまり人気が高い映画ではないらしいとは思ったが…案の定日本が舞台なのに後半はスタジオ撮影とCGの組み合わせでガッカリ。主演のブラッド・ピットには興味がなく、日本を背景にした映画だから、学生に「日本に関する映画を教えて」と訊かれた時の用心のために観ておいた方が良いだろう、程度の気持ちだった。が、それにしても。さて、あらすじは…

 

 不運な暗殺者レディバグ (てんとう虫、ブラット・ピット) は過去に数々の失敗をしてから、平和にことを運ぶよう決意した。が、彼の運命はそれを許さず、最新任務では世界最速の列車で、世界中の凄腕の暗殺者たちとの対決する場に招かれる。最後の仕事のつもりだったのに、現代日本を駆け抜けるこのノンストップ搭乗はスリル満点の旅の始まりにすぎなかった…(IMDbより翻訳)

 

 映画の初めでは多分本物の東京の街を映していて、外国人がこの都市のどこに注目するかが反映されていた。昔、英建築家グループ アーキグラムのサー・ピーター・クックが日本を訪問したとき、お子さんが「縦に長い看板の光に衝撃を受けていた」と語ったことがある。この映画でも(多分)アメリカでは見慣れない、日本独特の夜の街の灯をカメラは捉えている。また色合いが日本の映画やTV番組などで見るものとは微妙に異なる。偏見かと思われるかもしれないけれど、日本のTV番組や映画の映す色と外国のそれとは明らかに異なる。撮影者の色の選び方が反映されているからだ。撮影者の好みだけではなく、自分の国で見慣れた都市の景観が刷り込まれているので、彼らが注目してしまう、あるいは強調してしまう色に跳ね返ってくるらしい。映画でもこの前半部分は悪くない。でも途中から段々微妙に本物とは違うCGによる景色が増えてきて、建物もスタジオセットになり、親分(?)の家の正面に鳥居が玄関のように立っている有様には目を覆いたくなった。(『ラスト サムライ』でも鳥居が玄関と混同されて、騎馬隊が通り抜ける場面があったけれど。) 終着駅の京都の風景はCGなのだが、本物の京都の五重塔はもっと複雑かつ精巧でバランスも美しい。何故東京の場面のように本物の景色を使わなかったのだろうか? また、新幹線の駅が全てセットなのも残念。よく考えれば、改札を通った先の新幹線のホームにコインロッカーがあるのは変だし意味がない。東京駅でロケーション撮影していればこんなことは起こらないのに、この手の現実感の無さがこの映画を安っぽくしていると思う。

 

 最後にこれは既に語られているけれど、伊坂幸太郎の原作『マリアビートル』の登場人物はほとんど日本人なのに、映画ではほとんどが白人に代えられているので、ホワイト・ウォッシングと言われてもしょうがない。日本の電車や新幹線に白人の乗客があれほどの割合で乗車していることはまずないし。総じて、後悔するかもしれないから敢えて月曜割引で観たのは正解だった。