BBC iPlayer でオードリー・ヘプバーン主演の『尼僧物語/ The Nun's Story』(1959)を観た。監督は『真昼の決闘』(1952)や『ジャッカルの日』(1973)で名高いフレッド・ジンネマン。ウィキペディアによれば、完成当初 配給元のワーナー・ブラザースは「この映画はあたらない」と評価したらしいが、予想に反して大ヒットだったという。映画を撮った人たちも当時の観客も初めは『ローマの休日』や『サブリナ』などで大スターだったヘプバーンの尼僧姿に惹かれていたのかもしれない。でも、実際に映画を観るとベストセラーだった実在する尼僧を描いたキャスリン・ヒュウム著の原作の影響で、ストーリーは大変真面目な上に様々な問いを投げかけるので、鑑賞後暫し考え込まされる点が予想外のヒットを生んだのだろう。「宗教とは何か」「宗教への服従とは」「キリストの真の教えは何か」などを真正面から問いかけてくる。しかも、イギリス資本でデボラ・カー主演『黒水仙』(1946)とは異なり、ハリウッドの豊富な予算で可能だったアフリカのコンゴでの撮影によって、この映画はよりリアルで建物など植民地の描写に関しても価値あるものになっている。また『黒水仙』はそのサスペンス面や男女関係が面白いのに対して、『尼僧物語』は信仰を含む「組織への服従」と看護師として「求めるキャリア」の板挟みという現代にも通じる普遍的なジレンマを訴えてくる。自分が日本で会社組織に馴染めなかった時と同じ構図で、主人公に深く共感した。アカデミー賞では強力な対抗馬『ベン・ハー』が独占したので、ノミネートだけに留まったらしいけれど。さて、そのあらすじは…

 

   時は1930年、若きガブリエレ・ファン・デ・モール(オードリー・ヘプバーン)は尼僧になるべく母国ベルギーの修道院に入る。間も無く彼女は修道院での貧困、純潔、従順の誓いに順応することが難しいと気づき、最後の誓いの後でも自分の能力に疑問を持ち続ける。シスター・ルークと呼ばれるようになったガブリエレは、医学の勉学に優れ、ベルギー領コンゴに派遣されることを夢見ていた。しかし、上司であるマザーが謙虚さを示すためにわざと医学の試験に落ちるよう勧めたとき、シスター・ルークはその指示に従うことができなかった。そして素晴らしい試験結果に関わらず、彼女がコンゴに派遣されることはなく、ブリュッセルの療養所に送られるのだった。(IMDbより翻訳)

 

 高名な医師の娘であるシスター・ルークの真の目的は看護師としてベルギー領コンゴで人々を助けること。その手段として当時可能だったのが、尼僧としての派遣だったので、信仰心よりも自己の意志が優ってしまう。しかも組織としての修道院は理不尽で屈辱的な仕打ちに対しても服従を強いるので、徐々に耐え難くなってくるのは当然だろう。いつの時代であってもこの手のイジメは組織の中に存在する。ネタバレになるけれど「過去は捨てろ」という教えがあるにも関わらず、こっそり渡された弟から手紙で父の訃報を聞いた途端、彼女の忍耐力は折れてしまう。各エピソードに説得力があるので、映画が終わる時点で観客の多くはシスター・ルークの味方になる。

 

 ヘプバーンの輝きも含め、カトリックの実情を記録した『尼僧物語』も後世に残る名画だと思う。


日本語の予告編は見当たらないので、英語版