BBC iPlayで感染症関連の映画『パーフェクト・センス/Perfect Sense』(2011)を観た。デヴィッド・マッケンジー監督作品。感染症をテーマとする映画を観るときの印象がコロナ禍前と後ではすっかり変わってしまった。特にこの映画は未知の感染症によって人々の五感が徐々に失われていくという、Covid-19初期の味覚・嗅覚障害にも似た症状なので余計に身につまされる。よりによってそんな映画をiPlayerで選んで観なくたっていいものを、ネットでストーリーを知ってしまったばかりに気になって仕方がなく結局観賞。主演はユアン・マクレガーとエヴァ・グリーンで二人が出演した映画は面白いものが多いし。というわけであらすじは…

 

  奇妙な伝染病が世界中で流行り始め、人々は突然感覚をひとつづつ失っていく。最初は臭覚の喪失。次は聴覚の喪失で破壊的な癇癪を起すことが前兆となる。こんな状況の中、感染症学者のスーザン(エヴァ・グリーン)は自宅近所のレストランのシェフ、マイケル(ユアン・マクレガー)と出会い、関係を深めていく。スーザンの属する疫学チームはこの伝染病を解明するべく格闘するが、一方、マイケルのレストランはこのパンデミックから直接打撃を受け、客足が遠のく。感覚の喪失は多くの人々を悩ませ、当局が秩序を維持しようとするにつれ混乱が増していく。こんなに変わってしまった世界の中で「人を愛すること」は可能なのか?

 

 コロナ感染後、ロシア人の友人は味覚と臭覚が効かなくなったそうで「自分の幸せがこれほど感覚に左右されていたとは驚きだった」と話していたのを思い出した。食べ物が美味しく感じられないのは辛いらしい。後に回復できたからまだ良かったけれど。そういう意味では「感染症学者とシェフのカップル」は物語の設定としては都合が良すぎかも。とはいえ、マイケルが残る五感に訴えるメニューを創るべく、噛んで音がでる食材や食感を重視する料理を開発するあたりはまだ希望が持てる。しかし、ネタバレになるけれど、最後に残った感覚が失われてしまったら…社会が機能するかどうかさえ危ぶまれる。で、この映画がもたらす最大の衝撃は全人類が五感を喪失したらどうなるか、を想像させる点だろう。五感に障がいのある人々が少数派の社会に慣れきっているけれど、もしも多数派になったら?こんな状況を想像したことは未だかつて無かった。これが物語(フィクション)の醍醐味かもしれない。けれど後味は複雑。

 

予告編(字幕付)