ケネス・ブラナー監督の自伝的作品『ベルファスト』をハックニー・ピクチャーハウスで観たのは10日前。今月から学部2年生、3年生の上にインテリア修士の学生まで教えることになってしまって、とてもじゃないけれど時間が足りなすぎ。この映画のすぐ後にギレルモ・デル・トロ監督の『ナイトメア・アレイ』(2021)も観たのだが、あまりにドロドロで後味が悪く、『ベルファスト』の可愛らしさや爽やかさの方が個人的にはずっと好みなのでこちらを紹介する。あらすじは…

 

 時は1969年。9歳のバデイの世界は内戦の勃発で、ある日を境に突然暗転する。殆どがプロテスタントの地域でカソリックの家庭を狙った襲撃。通りはバリケードで遮られ、戦車や警官隊が侵入し、二人の子供たちが通りに出ていてママ(カトリーナ・バルフ)は気が気ではない。一方、パパ(ジェイミー・ドーナン)は海を超えたイングランドへ配管工の出稼ぎで二週間に一度しか帰ってこられない。パパは「ベルファストを捨てて家族で海外へ移住するしかない」というけど、隣には大好きなおじいちゃん(キアラン・ハインズ)とおばあちゃん(ジュディ・デンチ)、学校には憧れのキャサリンがいてバディは気が進まない…

 

 映画は1960年代のストリートで子供たちや彼らを見守る近隣の人々をうつしだす。子供が多かったせいもあるかもしれないけれど、今よりずっとコミュニティが機能していて、街全体が家族のような感じ。そのせいで、バディの家族は海外移住を決断できない。それでもIRAのテロは次第にバディの身近に歩み寄ってくる。昔、語学学校に行っていた頃、アイルランド人の先生が「力のある人は大抵国を棄てて出て行ってしまう」と言うのを聞いて衝撃を受けたことがあるけれど、海外移住はアイルランドでは普通にある話。また、大学院時代の友人は出身国の奨学金を貰いながら、家族を引き連れてロンドンに来たけれど、「国に帰ったらいつ爆弾テロで子供達がひどい目に遭うかわからない」ので戻るつもりはなく、たとえ裁判沙汰になっても戦う、と言っていた。国と家族との関係で引き裂かれる人生は重い。また、英国人の友人曰く「英国はこうして他国(特に旧植民地)から優秀な人材を引き抜いて繁栄してきた」のも事実。

 

日本語版予告編

 

アイルランド訛りは苦手なので英語字幕なしで観たのは失敗だった。

 

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