情けないことにうっかりAmazon Primeに入ってしまったので、この一ヶ月間無料期間だけ、TVドラマか映画を観る羽目になってしまった。最初に観た映画は以前友人に勧められた『移動都市:モータル・エンジン』(2018、クリスチャン・リヴァース監督)。予告編で分かる通り、巨大な移動都市ロンドンが悪役のような印象を受けるので、原作者はきっと英国人に違いない、と思ったら案の定そうだった。原作者フィリップ・リーヴはジュブナイル系SF作家でイラストも描くとか。ジュブナイルだったら、英語も多少易しいかもしれないし、ロックダウンが解除されたら本屋で原作シリーズを見てみようと思う。さて、あらすじは…

 

 謎の少女へスター・ショウ(ヘラ・ヒルマー)はたった一人で車輪上で動く巨大略奪都市ロンドンに潜入。ロンドンはへスターの母を殺した敵のバレンタイン(ヒューゴ・ウィーヴィング)が牛耳っている。ロンドンから追い出されたトム・ナッツウォーシーと母の盟友で懸賞金がかかるお尋ね者アナ・ファングの助けを得ながら、へスターは世界制覇を目論むバレンタインの野望に立ち向かう。

 

 都市が都市を食べるという設定も移動都市や飛行船のデザインも良いし、敵討ちのストーリーも面白く、キャストも悪くない。ただ、底に流れる哲学が足らないので深みがなくて残念。

 

 日本ではジブリ映画『ハウルの動く城』からの影響と受け取られるかもしれないけれど、実は英国建築界には移動都市プロジェクトの歴史がある。建築界のビートルズと呼ばれるアーキグラムの一員ロン・ヘロンによるWalking City 1964(著作権の関係でクリックしてご参照のこと)。かつてロンドンの大学院での講義で初めてイラストを見たときは度肝を抜かれ、正直言って「これアリなの?」と俄然やる気が出たことを思い出す。何しろ当時のチューターが同じアーキグラムのデニス・クロンプトンだったので、「先生の属するグループが発表したプロジェクトがこれか」と衝撃だった。日本の大学では私の最初のプロジェクトは「構造的に建たない」と酷評されたのに…英国では真逆。例えば当時の同級生は「図面に階段を描いたら、そんな些細なことまで考えるな、とチューターに叱られた」と言い、階段の数まで数える日本の大学との違いにショックを受けた。「ペーパーアーキテクトの方が実作ばかりの建築家よりずっとCool」という学生も。こうした価値観の大転換に戸惑った記憶がある。今になって分かるのは、現実的なプロジェクトしか考えていないと、思考の幅が狭まってしまい、建築のようにかなり長いスパンで未来に残るものを創る上で障害になりかねないということ。例えば建築における重力を把握するには重力の影響で建てられない建物まで幅広く考えないとその本質が分からない、という具合だ。

 

 ただ、この映画自体はプロデューサーのピーター・ジャクソン(『ロード・オブ・ザ・リング』監督)を始めニュージーランド系なので、Walking Cityのことは念頭になかったかもしれない。やはり原作のイラストを見なければいけない。