BBC iPlayerで『Minding the Gap / 行き止まりの世界に生まれて』(2018)を観た。オバマ前大統領が今年度ナンバーワン映画と言ったとか。BBCでは内容を伝えるためにAn American Skateboarding Storyというサブタイトルが付いている。でも、内容はスケートボーディングの持つスピード感や軽やかさとは真逆で重い。崩壊した家庭環境からスケートボーディングによって生き延びた三人の少年たちの12年間にわたる実像を追っているから。映画を撮ったビン・リュー監督もそのうちの一人で自分が受けた継父からの虐待について語る。人生ってどうしてこんなに大変なのだろう、と考えさせられるけれど、家族より強い絆を持つスケート仲間と一緒に居ることやスケートボーディング・トリック(技)の練習に集中することで、嫌な日常を忘れている彼らを見るとホッとできる。あらすじは…(ネタバレあり)

 

 「ラストベルト」と呼ばれる、かつて繁栄を誇ったアメリカの地方都市イリノイ州ロックフォード。人種も年齢も異なるスケーター少年三人が大人になるにつれて直面する責任や、思いも寄らない家庭内の問題の暴露によって10年に渡る友情が脅かされる。韓国系のビン・リューはスケーター仲間の苦難に満ちた成長過程と現代における男らしさとの関係を映画を通じて探る。仲間のうち23歳のザックは息子が生まれてからガールフレンドとの関係がおかしくなって行き、終いには彼女に暴力を振るってしまう。17歳のキアーは自己の黒人としてのアイデンティティーと格闘し、父の死後彼にのし掛かってくる家族への責任に直面する。仲間を撮ることで、自分自身の家庭問題に取り組む心構えが出来たのか、ビンも母へのインタビューを敢行する…

 

 全編を通して、スケート仲間たちの奮闘とリュー監督による仲間への応援と親世代への許しに拍手を送りたくなる。中でも黒人差別に対する描写はBlack Lives Matter [BLM] 運動の盛り上がりとも重なる。スケートボーディングでは人種も年齢も関係ない。それでも墓参りに行くシーンで、キアーは生前父親が「お前は白人の友達が沢山いるようだが、自分が黒人であることを決して忘れるな」と警告したことを思い出す。ネタバレになるけれど最後のテロップが重要で、三人がそれぞれスケートボーディングを生かした職業に就いたことが明かされる。高い所に登ったり、隠れた屋上などのスケート最適地を見つけるのが得意なザックは屋根職人に、スケートボーディングの技を撮影し続けてきたビンはドキュメンタリー映画の監督に、キアーはスケートボーディングのプロとしてスポンサーがついた。皆が遊びとして楽しむものを職業にできるなんて、素晴らしくカッコいいと思う。この映画はプロになったキアーを多くの人に知ってもらおうという応援も兼ねていると見た。
 

 

ストリート・スケートの場所探し(Found Space)はちょっとした不法侵入だけど、「犯罪ではない」

 

【追加動画】マル激トーク・オン・ディマンド(1034) この映画の解説は39:30から