金曜日午後はオリンピック中継もあるし、子連れ出勤日だったのであまり仕事にならなかったためか、3時半にオフィスは解散、同僚とテームズ川南岸サウスバンクにあるテート・モダンで開催中の『ジョージア・オキーフ』展に行った。ロンドンの美術館や博物館は金曜夜9時又は10時くらいまで開いていることが多いので、土日にわざわざ出かけるよりも時間を有効活用できる。この展覧会に興味を持ったのは、数週間前にBBCテレビで放映されたドキュメンタリー番組で米モダニストの女性画家ジョージア・オキーフ(1887~1986)の人生について初めて知ったから。それに、カード登録するとART FUNDの年会費自体が割引(£46.5)になると知り、申請したところ2週間経ってようやく会員カードのNational Art Passが届いたので使ってみたかったのだ。現段階で既に気になる展覧会がいくつか開催中なので、一年間の会員割引(企画展が半額又は全額フリーになる)で十分元は取れるはず。

 BBCの番組もこの展覧会もオキーフとアルフレッド・スティーグリッツ(1864~1946)との関係に焦点を当てている。スティーグリッツはオキーフのメンターで芸術上および生活上のパートナーだったユダヤ人写真家。23歳も年上で妻子持ち、ニューヨークのGallery 291を主宰して当時の米アート界をリードするカリスマ性を持つスティーグリッツにオキーフの友人が彼女の作品集を送り付けたことから、二人の関係が始まる。元々オキーフはウィスコンシン州の農家の出身で、シカゴのアートスクールでは当時の教師のスタイルに従ってうさぎと食器などの静物画を描いていた。転機になったのは、ボーディングスクール(寄宿舎学校)の美術教師になって自分のスタイルを模索し始めてから。その頃の作品がスティーグリッツの目に止まり、彼の勧めでニューヨークに上京。二人で暮らし始めた上に、スティーグリッツはオキーフのヌード写真を発表したので彼らの行動は当時としては許容範囲を超えた大スキャンダルだったらしい。写真でみるオキーフ自身もなかなか一筋縄ではいかない、個性的な顔立ちで、普通に立っているだけで「ただものではない」強い印象を与えるひと。実際スティーグリッツの写真の中でもオキーフの裸体の一部を撮ったものや空に漂う雲などは、彼女の絵に直接影響を与えているようだ。オキーフ自身は自分の絵が常にセクシャリティをテーマにしていると批評家に解釈されるので辟易としていたというが、彼女が描くニューメキシコの赤い山々など、どう見ても人体の一部にしか見えない。

 テレビ画面ではなく実物の絵を見ると、色のコンビネーションや色自体の美しさに驚く。特に後期のニューメキシコの砂漠に住み始めてからの絵は、動物の頭蓋骨や骨格と空や赤い土など大自然の組み合わせが多く、シュールレアリズム的。また、炭で描いた山のデッサンなどもとても上手い。花の絵も予想以上にキャンバスが大きいので迫力があり、一緒に展示してあるスティーグリッツの写真が小さいため、見劣りしてしまう程だ。当時はドロドロとして大変な関係だったようだが、コラボレーションによってお互いの芸術性を高めた事実は誰にも否定できない。展覧会は10月30日迄。