アマヤドリ「人形の家」疾走版 2024.03.22(マチネ)


アマヤドリ「人形の家」、疾走版です。満員の客席を前に稲垣干城さんが前説的に語りますが、中日前とは内容を違えていました。この版への感想は賛否両論であると述べ、否定的な感想に備えたのであろうと感じさせる言葉を並べていらっしゃいましたが、そもそも本当に否定的なひとはなにも言ってこないでしょうから、この版は議論を起こすという点に於いて成功したということですね。

「疾走版」をご覧になった方はご存じと思いますが或る役柄を複数の人間が演じるという版なので、「何々役」というくくり方がほぼ、出来ません。従いまして以下はプログラムにお名前の上げられている順に、感想を述べていきます。

沼田星麻さんは、夢の中で唱えているかのようなトルヴァルのセリフで演技を始め、同じ雰囲気の中でのやはりトルヴァルのセリフで演技を終え、芝居そのものを閉めます。
最初に、トルヴァルとして、三人の女優さんの演じるノーラを次々に相手にしていきますが、いずれもとても見ごたえがありました。順番で言うと三番目になる冨永さくらさんとのアクロバティックな絡みは、日本に於ける小劇場の或るパターンを提示したものと思われました。二番目の、相場りこさんとの、大きな身振りを伴う、ときに幻想的なシーンも、やはり小劇場のひとつのパターンの提示ということになるのでしょうか。

沼田さん演じるトルヴァルとノーラとして最初に絡むのが一川幸恵さんで、数年前に同じ会場で見た周年公演のときよりはるかに上手い女優さんになられていました。女優としての経験年数的にはかなりキャリアのある方と思いますが、歩みを止めない姿は美しいですね。ダンスもとても良い、と思ったら、劇団の振り付け担当者であられました。

宮川飛鳥さん、風姿花伝で見た周年ではまだ新人さんという感じでしたが、上達著しい演技を見せてくれました。クログスタ役を演じた箇所での、老獪なる役柄と役者さん本人との若さの混交が楽しかったです。

堤和悠樹さん、池袋における三人芝居での好演が心に残る方です。激情に身を任せながらも観客を置いていかないトルヴァル役がとてもよかったです。

星野李奈さん、小劇場にありがちな斜に構えた演技でなく、まっすぐに演じておられる様子を大変に好ましく思いました。正面切って堂々とセリフを唱える箇所が素晴らしかったです。客演の結稀キナさんとの絡みもよかった。

稲垣干城さん、女性役を演じたこと、また、特徴を持たせたセリフ回しから、トリックスター的な印象を持ちましたが、それがとても良かったです。ノーラを演じての、堤さん、沼田さんとの絡みは、この版のハイライトのひとつでしたね。

先にお名前の出た相葉りこさんも女優としてかなりキャリアのある方と思いますが、この世とあの世の境に立つような独特の雰囲気をお持ちです。身体の動きも軽く、見ていて気持ちが良いですね。

ここからは客演のみなさんです。
冨永さくらさんは上に述べたごとく沼田さんとの絡みで見せたアクロバティックな動きもさることながら、ストレートな演技もたいへんに良かったです。一川さん、相葉さんとあえて風合いを違えてのノーラ、客演ながら、沼田さんとのなじみ具合もなかなかのものでした。

結稀キナさん、堂々とノーラを演じるかと思えば、ヘレーネもたくみに演じておられました。大人の女性と娘を演じ分けるのは相当に難しいはずですが。とてもうまい女優さんですね、であるからこそ客演に呼ばれたのかな。

村山恵美さん、この方が最初に沼田さんと絡むところ、いささか迷うところではあるのですが、やはりわたくしとしては、沼田さんのご助力を得て、タイトルのモチーフを提示していたのだと考えます。女優さんではこの方だけがノーラを演じていないのですが、村山さんがノーラをやると版の意味が変わってくるからなのじゃないかと考えました、それほど独特の透明感をお持ちの方です。

という訳で、以上、アマヤドリ「人形の家」疾走版、2024年3月22日マチネ、の感想でした。

なおこの版で劇中二回にわたって全員でのダンスの際に用いられる曲が選ばれた件、リフレインの歌詞がその理由を示していると考えますが、いかがでしょうか。