よみうり大手町ホール開館記念能・秋公演 2014.9.23 @ よみうり大手町ホール



番組:
八島(舞囃子)(宝生流)宝生和英
昆布売(狂言)(大蔵流)山本東次郎
三笑(仕舞)(宝生流)三川泉
羽衣-舞込-(能)(喜多流)友枝昭世



新しくオープンしたホールの開館記念能です。


まずは修羅物(=武士を扱ったお能)の舞囃子「八島」、宝生流の若き家元・宝生和英師が舞われます。若いなあと思いながら見ていたのですがこの方まだ二十代なのですね。お父様たる先代のお家元が早逝された故とはいえなんとも若い。
家元というのは流派を背負う存在なわけで、能の五流の中では観世流に次ぐ規模とされる宝生流のお家元と言えばなまじっかな覚悟では務まらないところ、若くしていやおうなしにお家元たらざるを得なかった宝生師の負ったものの大きさたるや他人には想像すら許されないところでありましょう。
その宝生和英師の舞ですがやはりあちこちに若さが顔を出すのはご本人がいくらお能という老いこそが至上の価値たる世界を意識して舞ったとしてもいたしかたないところです、だって若いんですから。師の舞を若さゆえに好まない方、まるで歌舞伎じゃないかと退ける方がいらっしゃったとしてもやむを得ないこととは思いますが、今の舞いの価値が二十年、三十年後にわかるかもしれないのが瞬間に消え去るアートたる舞台芸術の逆説たるところ、今このときの印象で全てを切り捨てず、見ている自分が消え去った後のことまで頭に置いての評価をして差し上げてはどうかと門外漢ながら思うわたくしです。


狂言・昆布売、山本家の当主たる山本東次郎師がシテ(=主役)を務められます。山本家のお狂言は先代の山本東次郎師の「笑わせない狂言」を今なお奉じておられるようにお見受けいたしますが、当世の東次郎師のお狂言は型を守りながらも型を生かすことに神経を注いでいらっしゃるのだろうか、しかしそれは年齢を重ねた今の山本師であるからこそ可能なのであろうなあ…粛然と座するのみでした。


仕舞・三笑、舞われるのは宝生流の重鎮、三川泉師です。八十歳を超えておられるはずですが、動作のはしばしに年齢的にやむをえないところを明らかにされていたとはいえ、精気あふれる舞い手であったであろう五十代の師の舞を垣間見せてくださったいくつもの瞬間に立ち会えたのは観客として至上の喜びでありました。


能・羽衣、シテは喜多流の名手・友枝昭世師です。終幕、天女が空高く飛び去る姿を見せてくださった師の、鍛錬の果てに初めて到達しえたのであろう境地に脱帽するのみです。


以上、拝見してから相当の時間が経ってしまいましたが、やはり書いておこうと思い記しました。