新橋演舞場で歌舞伎を見ました(昼の部)。

あらすじなどは略し、印象に残った役者について記します。

「寺子屋」での海老蔵。以前、弁天小僧を見たときにも感じたのですが、ついに「市川海老蔵」を生きることを納得されたんだなとの印象を受けました。
歌舞伎の大名跡である市川海老蔵となるべくこの世に生を受け、はたからは羨まれるばかりでしょう。しかし、「市川海老蔵」としてしか生きさせてもらえない当の本人にとって、この世に生まれてきてしまったことはただただ不条理であり、覆われることのない傷でしかなかったことでしょう、自ら進んで「市川海老蔵」を引き受ける覚悟が定まるそのときまでは。

顔よし、声よし、姿よし。
これからの海老蔵さんに注目したいと思います。

同じく「寺子屋」での中村七之助。
この方も、中村勘三郎の息子、中村芝翫の孫という十字架を背負った方ですが、美しい発声と芝翫さん譲りの気品溢れる所作が素晴らしかったです。
女形としてはかなり大きな方で、「鴨居に頭をぶつける」というのがシャレにならないほどですが、衣装の着付け、帯の締め方などの工夫で背の高さを気にさせないようにつとめているのを積極的に評価すべきでしょう。
七之助さん、今日は「魚屋宗五郎」にも出演していらっしゃいましたけれど、朋輩が虐待される様子の仕方話はたいへんな好演ではあるのですが、教えられた多くの所作を立派にこなしましたというところで、ご自身の表現が観客に明らかになるまでには未だ至っていないと感じました。

この「魚屋宗五郎」では女房おはまの芝雀、父太兵衛の市蔵、子奴三吉の亀寿が大変素晴らしく、歌舞伎の魅力は大名跡だけの力では実現出来ないことを実感させてくれました。主役に殺陣で絡む精気あふれる若手たちも大いに賞賛されるべきでしょう。

「吉野山」の福助さんは、わたくし児太郎時代からのファンです。やはり美しいですね。もっと拝見したかった。

楽しい観劇でした。