内閣法制局の「天皇の退位の儀式は違憲のおそれがあるのでできない」は本当か? | なか2656のブログ

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1.はじめに

ネットの記事をみていたところ、興味深い記事を見かけました。

『天皇陛下の退位に伴う儀式について、内閣法制局が、天皇の国政関与を禁じた憲法4条などとの整合性から実施に否定的な見解を示していることが分かった。宮内庁は江戸時代以前の儀式の先例を研究しているが、現憲法下で初の退位となるため、実施の有無や形式が議論になりそうだ。
「<退位儀式>法制局が難色 「違憲の恐れ」政府、形式検討へ」毎日新聞2017年4月23日付』

・「<退位儀式>法制局が難色 「違憲の恐れ」政府、形式検討へ」毎日新聞2017年4月23日付


(ライブドアニュースより)

つまり内閣法制局は、違憲のおそれがあるので天皇の退位の儀式はできないと主張しているそうですが、それは正しいのでしょうか。

現行の皇室典範には退位の規定がないため、宮内庁など政府がかつての退位の儀式を調べているそうです。上の記事によると江戸時代まで行われた儀式はつぎのようなものだったそうです。

『退位の儀式は、平安時代に編まれた書物「貞観(じょうがん)儀式」に内容が記され、その内容が江戸時代まで引き継がれたという。それによると、皇位を譲る天皇の声明文を役人が読み上げ、歴代天皇に伝わる剣やまが玉を退位する天皇から新天皇に受け継ぐなどの手順がある。』


ところが、内閣法制局は、この儀式の際の天皇の声明文を役人が読み上げることは憲法4条の禁止する天皇の政治的行為にあたると問題視しているというのです。

しかしこれはよくわかりません。

2.「国事行為」としての「儀式」
そもそも、憲法7条10号は天皇が「国事行為」として「儀式」を行うことを明文で認めています。

そして憲法3条は、「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふ」と規定し、天皇の国事行為が、国民の民意に基づく内閣のコントロールにより行われることにより、責任は内閣が負い、天皇は無答責となるとされています。(芦部信喜『憲法 第6版』47頁)

つまり、国民主権の現行憲法では天皇の政治的行為は原則禁止(4条)ですが、憲法6条、7条各号が明示する「国事行為」は国民から信託された内閣の助言と承認によりコントロールされ、また内閣が責任を負うという制度をとり例外的に認めることにより、国民主権原理を守っているのです。

ですから、天皇が国事行為(7条10号)として退位の儀式を行うことは、内閣の助言と承認がある限り、内閣法制局が問題視する政治的行為とはなりません。

3.儀式中の声明文の読み上げ
また、儀式のなかで声明文を読み上げることは、現在行われている、国会開会式の際の天皇の「おことば」のように、天皇の「公的行為」ととらえることができます。

この「おことば」は、天皇の象徴としての地位に基づく「公的行為」であり、国事行為に準じて内閣のコントロールのもとにあると解されています(芦部・前掲51頁)。

そのため、退位の儀式の声明文も、これが国民から選ばれた国会により組閣された内閣の助言と承認のもとに行われるのであれば、憲法上の問題は発生しません。

したがって、退位の儀式自体も憲法7条により問題がなく、その際の声明文も公的行為と考えるならこれも法的問題がないのであり、内閣法制局の危惧は杞憂であると思われます。

4.「国民の総意」
なお、上の記事を読むと、またしても内閣法制局は憲法1条の「国民の総意」の文言を持ち出して、天皇の譲位は違憲のおそれがあるので、違憲な儀式も行うべきでないと主張しているようです。

しかし、この憲法1条の趣旨は一言でいえば、明治憲法が天皇主権であったところ、現行憲法は国民主権であることを宣言していることです。そして、憲法1条は、「象徴としての天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づく」としており、この国民の「総意」とは、主権者たる国民の「意思」の意味です。(芹沢斉・石村修など『基本法コンメンタール憲法 第5版』16頁)

つまり制度としての象徴天皇制は主権者たる国民の意思に基づくと述べているのであって、国民がA氏を信任するか、B氏に信任するか等の個別の話をしているわけではないのです。

その意味でも内閣法制局の危惧は的外れであるように思えます。

安倍政権の使い走りとなってから、めっきり法的能力が落ちているようですが、内閣法制局は自分達の能力では無理と感じるなら、ただちに、例えば高橋和之教授などの重鎮に相談を願い、どこまでなら合憲・合法なのかの回答を策定し、政府や国民に示すべきです。

■関連するブログ記事
・政府「天皇陛下の生前退位は憲法上無理」は何が無理なのか?

■参考文献
・芦部信喜『憲法 第6版』47頁、51頁
・芹沢斉・石村修など『基本法コンメンタール憲法 第5版』16頁

憲法 第六版



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