セブンイレブン加盟店が病欠したバイト高校生にペナルティ9350円ー労働法 | なか2656のブログ

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1.セブンイレブンがネット上で炎上
東京都武蔵野市のセブンイレブンの加盟店でアルバイトをしている16歳の高校生の親の方が1月26日にツイッターでつぎのような投稿を行い、ネット上で大きな話題となり、1月31日には全国紙がこの事件を取り上げる事態となっています。

『娘のセブンイレブンの明細!明細は額面が書いてあるけど手書きでペナルティって書いて その金額が引いてありました。風邪で休んで替わりの人を見つけられないとペナルティらしい!休んだ10時間分を引いてるけど その分のお金って どう処理してるのかしら?明細がきちんとしてればいいけど…疑問』


ツイートに添付されたつぎの画像は、「勤務時間25時間、支払額合計23375円」という給与明細とともに、「ペナルティ935円×10時間=9350円」と手書きで書かれた付箋が写っています。


(毎日新聞サイトより)

・<セブン加盟店>バイト病欠で罰金 女子高生から9350円|毎日新聞

親の方のツイートや、新聞記事などによると、バイトの高校生が風邪で休んだ日に代替要員を探せなかったためにこのペナルティ(罰金)が課されたのだそうです。

そして親の方が店舗に電話をしたところ、店のオーナーは「契約書の文言にある。本人には説明してある。」と回答したとのことです。

2.「欠勤の際は代わりの人間を探してこないとペナルティ」という労働契約書は適法なのか?
(1)労基法16条の問題

セブンイレブン加盟店のオーナーは「労働契約書に書いてある」と親の方に回答したそうですが、かりにそれが本当だとして、そのような労働契約書は有効なのでしょうか?(もちろん懲戒処分をするためには、就業規則などに明文規定がなければなりません。最高裁平成15年10月10日判決)

そもそも、かりに飲食店のバイトで、「皿を割ったら罰金〇〇〇円」と労働契約書などに書かれていたら、それは損害賠償の予定であり労働基準法上違法です(16条)。ですから、「欠勤の際は代わりの人間を探してこないと時給相当額のペナルティ」と労働契約書に書かれていたらこれも労基法上違法です。

そして、病欠をしたバイト高校生に無断で9350円を差し引いたことは、労働法の賃金の大原則の一つである、「賃金の全額払いの原則」に反しており、これも労基法違反です(24条)。労基法16条および24条には罰則が設けられています(119条、120条)。

(2)そもそも休務をとる労働者は代わりの人間を探してくる義務を負うのか?
さらに、労働者とは、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」です(労働契約法2条1項)。

一方、使用者とは「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為するすべての者」(労働基準法11条)と規定されています。

つまり労働者とは労務を提供し賃金の支払いを受けるにすぎない者であり、使用者は、「労働者に関する事項について行為する者」なのですから、人事労務のマネジメント・シフト管理などは使用者側が行う業務であって、労働者側の義務ではないのです。

したがって、休務をとる労働者は代わりの人間を探してくる義務を負わないのであって、この点もセブンイレブンの実務は間違っています。

(3)そもそもバイトが欠勤したら即、懲戒処分の対象となるのか?
加えてこの事件を新聞などで読んでいて疑問なのは、セブンイレブンではバイトが一度でも欠勤すると即座に懲戒処分としての減給・ペナルティが課されるのだろうか?という点です。

この点、厚生労働省がウェブサイトで公表しているモデル就業規則の懲戒事由はつぎのようになっています。

(懲戒の事由)
第62条
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
(後略)


モデル就業規則|厚生労働省

このように厚労省のモデル就業規則は、一回欠勤したら即、減給処分が科されるとはなっていません。一般的な多くの民間企業もそうではないでしょうか。この点もセブンイレブンのブラック企業さを感じます。

3.制裁金の制限
なお、1月31日の新聞記事によると、記者からの取材に対して、セブンイレブン・ジャパンの広報は、「労働者に対して減給の制裁を定める際、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない(略)」と定めた労働基準法91条に違反すると判断し、当該店舗に法令遵守を指導したと回答したそうです。

しかしこれもズレた回答です。そもそも2.(3)でみたとおり、セブンイレブンの就業規則において、欠勤をしたら即、減給となること自体が、(たとえ50%にとどまるとしても)就業規則における懲戒の規定として妥当であるかどうか社会通念に照らして疑問なのです。

また、新聞記事ではセブンイレブン・ジャパン側が「当社は法的責任はない」と強調しているのも気になります。商法は名板貸の責任を定めており(14条)、「のれん」を貸している以上、セブンイレブン・ジャパンは加盟店の行為に対して一定の法的責任を負うのではないでしょうか。

さらに、これも2.(1)(2)でみたとおり、「欠勤の際は代わりの人間を探してこないとペナルティ」と本件のセブンイレブン店舗が労働契約書に書いていたことが最大の問題です。

4.「ブラック企業大賞」ノミネート企業
これらの問題に記者に対して回答せずに労基法91条について答えているということは、ひょっとしてセブンイレブンの店舗は全国的にこのような就業規則や労働契約書で実務取扱いを行っているのではないでしょうか。

2015年にはセブンイレブンは「ブラック企業大賞」の候補にノミネートされました。このことをまざまざと思い出させる事件です。セブンイレブンは本部も加盟店も上から下までブラックなのではないかと疑いたくなります。

・ブラック企業大賞2015

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版』170頁
・酒井和子・清水直子『パート&契約社員の労働法 Ver.3』98頁
・大矢息生・外井浩志『会社と社員の法律相談』269頁

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労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)



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