【保険業法改正】乗合代理店が顧客の意向に沿い行った比較推奨販売に過失があった場合の責任 | なか2656のブログ

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1.はじめに
平成28年5月29日より施行予定の改正保険業法の柱のひとつは、情報提供義務の明確化です(改正保険業法294条1項)。

そして、改正保険業法294条1項に関連する、改正保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ・ハ は、乗合代理店に対する比較推奨規制を規定しています。

つまり、乗合代理店が顧客の意向に沿った保険契約を選別をする場合は、①取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険商品の概要、および、②当該提案の理由(推奨理由)、の2つの説明を行うことが義務付けられます(改正保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ)。

■比較推奨規制について詳しくはこちら
・【解説】保険業法改正と乗合代理店の比較推奨規制/情報提供義務

しかし、たとえば

A保険会社からa保険の募集の委託を受けているY乗合代理店があり、そのY代理店が、B保険会社からもb保険、C保険会社からもc保険の募集の委託を受けていた。

Y代理店が顧客Xから保険の相談を受け、保険商品に関する意向を把握し、a保険・b保険・c保険を比較可能な同種の保険商品であると概要を説明し、そのうえで、a保険契約を提案し、同保険契約が成立した。

ところが後日、Xが病気で入院するという保険事故が発生したが、それはa保険では支払対象外であり、一方、b・c保険では支払対象であり、XからY代理店に対して重大な苦情申立てがなされた。




という乗合代理店の比較推奨販売における商品選択などの過失のケースが想定されます。このようなケースにおいて、誰がどのような責任を負うかが問題となります。

2.乗合代理店の責任
改正保険業法の意向把握義務(同294条の2)、情報提供義務(同294条1項)には直接の罰則規定は用意されていません。しかし、これらに違反し、「保険契約者等の利益を害する事実があると認めるときは」は、金融庁から業務改善命令が発出されるおそれがあります(保険業法306条)。(吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』43頁)

さらに、「保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき」は、金融庁から募集人登録の取消しや、業務停止命令などの行政処分を受けるおそれがあります(同307条1項3号)。

また、行政上の責任だけでなく、乗合代理店は民事上の責任として、顧客から不法行為に基づく損害賠償請求を受けるおそれがあります(民法709条、715条等)。(吉田・前掲43頁)

3.保険会社の責任
つぎに、乗合代理店に保険の募集を委託している保険会社に対して顧客は責任を問えないかが問題となります。

この点、保険業法283条1項は、「所属保険会社等は、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。この規定は、民法715条の使用者責任と同趣旨の特殊な不法行為責任であるとされています。

一方、乗合代理店があてはまる、同条2項3号は、保険会社が保険募集の「委託をするにつき」、「相当の注意」をし、かつ、「これらの者の保険募集につき保険契約者に加えた損害の防止に努めた場合」には、保険会社は損害賠償の責任を負わないと規定しています(石田満『保険業法2009』600頁)。

この点、保険会社は乗合代理店に保険商品の募集の委託をするにあたって、その立場上、多様な乗合代理店に保険募集に関する情報提供のあり方や比較推奨のあり方などを指導・指揮することになります。

とはいえ、業態から規模まで多種多様な乗合代理店が存在することから、保険会社の指導・指揮は最低限のレベルのとどまらざるを得ないと考えられます(錦野裕宗「改正業法で誕生の比較推奨規制、意向把握義務への思いと期待」『週刊東洋経済臨時増刊 生保・損保特集2015年版』47頁)。

また、そもそも、顧客の意向に沿った保険契約を選別し、複数の保険商品を比較推奨販売するか否かを経営判断するのはあくまでも乗合代理店の側です。

このように、保険会社が乗合代理店に保険商品の募集の委託をするにあたり、相当の注意をして、かつ、その乗合代理店に対して、顧客への情報提供・比較推奨のあり方などを最低限のレベルで指導・指揮を行っていれば、保険会社側は保険業法283条の損害賠償責任を免れるのではないかと思われます。

この点、「個別具体的な保険募集において顧客の意向を把握の上、各保険会社の商品の中から適切な商品を選定し推奨するのは、保険会社ではなく代理店です。顧客意向に基づく推奨販売における知識不足等によるミスの責任は、最終的には推奨販売を行う代理店自身が負担することになるのではないか」と解説されています(藤本和也「顧客の意向に基づく推奨販売における商品選択ミスと代理店の賠償責任」『金融法務事情』2016年3月10日号(2037号)64頁)。

さらに、監督指針の改正に関するパブリックコメントにおける金融庁の回答をみると、乗合代理店の監督指針Ⅱ-4-2-9 (5)の比較推奨販売に関する「比較推奨販売に関する業務は、一義的には代理店自身に体制整備を求めるものという理解でよいか。また、保険会社には、どのような対応が求められるのか確認したい。」との問いがなされています。

これに対して、金融庁は、「保険会社においても、適切な保険募集を行うよう保険募集人に対して教育・指導・管理を実施する中で、適切な比較推奨販売を行うよう求めたり、問題があれば改善策を指示することが望ましい対応です。」としつつ、「Ⅱ-4-2-9(5)に基づく比較推奨販売に係る体制整備については、一義的には当該販売方法を用いた保険募集を行う保険募集人に対して求められるものです。」と回答しています(番号481)。

・コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方|金融庁サイト

4.結論
このように、乗合代理店の比較推奨販売において、意向把握や情報提供などのプロセスにおいて代理店に過失があり顧客が損害を被ったような場合、保険会社側が乗合代理店に対して保険募集に関する最低限度の指導・指揮を怠っていたようなときは別として、原則として、まずはその保険募集を行った乗合代理店が損害賠償責任などを負うことになると思われます。

■参考文献
・吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』43頁
・石田満『保険業法2009』600頁
・錦野裕宗「改正業法で誕生の比較推奨規制、意向把握義務への思いと期待」『週刊東洋経済臨時増刊 生保・損保特集2015年版』47頁
・藤本和也「顧客の意向に基づく推奨販売における商品選択ミスと代理店の賠償責任」『金融法務事情』2016年3月10日号(2037号)64頁

■関連するブログ記事
・【解説】保険業法等の一部を改正する法律について

・【解説】保険業法改正に伴う保険業法施行規則および監督指針の一部の改正について

・【解説】保険業法改正と乗合代理店の比較推奨規制/情報提供義務

・【解説】保険業法改正と銀行窓販・損保分野の意向把握義務・非公開金融情報等について


一問一答 改正保険業法早わかり -保険募集・販売ルール&態勢整備への対応策



保険業法2015



週刊東洋経済臨時増刊 生保・損保特集2015年版



金融法務事情 2016年 3/10 号 [雑誌]





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