今日(といってももう昨日)は、表参道にほど近い出版社さんに久しぶりに遊びに行き、いろんなお話を聞いたりお土産に雑誌や単行本を頂いてきたりでホクホクになった後、夜のライブ鑑賞までの時間をどう過ごそうかと考えていたんですが、カキーンと妙案が浮かびました。

『NINAGAWA 十二夜』を見に行こう!

少し前に『情熱大陸』で尾上菊之助さんを特集されていたのですが、そこで『NINAGAWA 十二夜』ロンドン公演の様子を垣間みて以来、日本公演があるならば是非拝見したいなーと思っていたのでした。

それから随分と時間が経ってから、友人に新橋演舞場で公演中との話を聞き、これは見に行くべしっ!と思っていたものの、もう千秋楽も迫っていたのでひょっとすると見に行けないかもなーと、半ばあきらめかけてもいました。

そこにきて、今日の長い空き時間。

読書でもしようかしらん♪と思って入ったスターバックスで、席に座るなり携帯でチケット情報をチェック。
いやん、ライブにもギリギリ間に合いそうだし、チケットも取れるらしい!

そこで、キュイーンとアイス・ダブル・トールラテを飲み干し地下鉄へゴー。
人生初の新橋演舞場へと向かいました。
どうしてここまでの行動力が出たのかと言うと、少し前に歌舞伎を見に行ったばかりで、その際、強烈に感動してしまったのです。
人の表現するものにどっぷり浸かって導かれる喜びと、驚きと、感動を、再び!

と言う訳で、午後4時半から8時10分まで、たっぷり贅沢な『NINAGAWA 十二夜』の旅に。
タイトルにある通り、演出はかの蜷川幸雄さん。
それだけでも私にとっては魅力的だったのですが、今日はそれにも増して、尾上菊之助さんの舞を見たかった!

私は、映画を見る時など、どちらかと言うと出演者よりも演出家を重視しがちなんです。なぜかというと、監督と言う全体を把握して動かす存在が、最終的にシーンやそこにこめるメッセージを取捨選択していると考えているから。

でも、『情熱大陸』で菊之助さんは、「ロンドンという場所で、言葉が通じなくても舞うことで想いを伝える」といった趣旨のことを話していらして、実際にロンドン公演を成功させられていたのです。
その磨き抜かれた芸を是非見てみたい!と思わずにはいられませんでした。

ストーリーや菊之助さんの一人二役(しかも双子の男女)、早着替えと言ったことは、きっと色々なところでも取り上げられているかと思いますが、何より私が心ひかれたのが、菊之助さんの美しさ。

両手で包み込みたくなるような、ふっくらとした頬が作る完璧なうりざね顔。
そして、無駄な響きの一切ない若々しくつややかな声。
憂いのある瞳。
そもそもが浮世離れした存在感の方だとは思うのだけど、乙女心を秘めて演じるその姿は、完全に男女の性別を超えてしまっていて、私の頭の中には、白洲正子さんの『両性具有の美』(新潮社)という著書のことが浮かんでいました。

この本の帯にはこんなことが書かれています。

「男は男に成るまでの間に、この世のものとも思われぬ玄妙幽艶な一時期があるーーー。」

まさしく!!
ステージ上の菊之助さんの存在感は、男に成るまでの間に出現するというその美を、そのまま瞬間的に、奇跡的にとどめることに成功したような、特別なもの。
それで、若き姫君の役を演じられるとなると、一切、不浄なものを排除してしまったような清らかさ。
なんと勿体ないことに、その姫君姿は、お芝居の最初と最後にしか見ることが出来ません。が、これがむしろ効果的と言うのでしょうか。最後の最後に姫君姿で出てこられる時の、心から女性でいることを喜んでいるような、安堵の中にも見られる恍惚とした表情には、もう目の前で手を振っているのが果たして琵琶姫なのか、尾上菊之助なのか、もっとなにか超越した存在なのか、そんなことはこの際どうでも良いのかもしれないと思わせてしまうような、不思議な力に満ちていました。

尾上菊之助という役者の中にひろがる広大な宇宙。
そこに迷い込んでしまった感じ。

本来なら、この原作がシェイクスピアであるが故に・・・と言うところまで話を広げられれば良いのでしょうが、無知な私は、「あれがシェイクスピアのメッセージが込められている台詞かもしれないな」というところまではなんとなーく分かっても、果たしてその真意が何なのかと言うところまではたどり着けません。
きっとここに、知る楽しみがあるんでしょうね。
分かりやすいストーリーに仕立てられていましたが、ちゃんとその奥には深遠な世界が広がっている。んー。素晴らしい。

それにしても、二幕目の最初に忍ぶ恋心を舞う菊之助さんの美しさには、瞬きすらできませんでした。それで目が乾いたせいか、美しさへの感激のあまりなのか、菊之助さんが舞い終わった時には、私の目には知らないうちに涙がたまってしまってました。

あれは伝わる。
言葉以上だ。
しかし、菊之助さんは声も美しいからなー。


などと思いながら、私は新橋演舞場を後にし、現実世界で築地市場の駅にほとんど駆け足でたどり着き、地下深い大江戸線のコンパクトな車両に揺られて青山へ。
次なる場所は・・・。

つづく。