紀伊田辺の駅をJRバスで出発したのは午後3時過ぎ。終点の栗栖川で龍神バスに乗り継ぎ、計1時間20分ほどのバスの旅でした。この龍神バスに乗っている時間の楽しいこと。



通常のバスより一回り小さくて、最初はこの写真のように、乗客の方々がパラパラとしらっしゃいました。が、ぐいぐい川沿いの道を登り始めると小さな小学校の前に停車。乗ってきたのは学校の先生に見送られる小学校2~3年生くらいの子供たち5人。
「こんにちはー!」
とバスの運転手さんにごあいさつ。
運転手さんも元気にごあいさつ(笑。

「あ、だれかのってる」
「ほんとや」

ひそひそ声でこちらを見て喋っていましたが、しばらくすると楽しそうに小突き合いはじめ、子供ワールド炸裂。でも、次の停留所で3人降り、その次に1人降り。残った1人の男の子もどこかの停留所で降りるんだろうと思っていると、運転手さんが
「すみません、少々お待ちください。」
と私たち大人に向かって話しかけられ、停留所のない場所で、その子のお家のあるだろう長い坂道の前で、はい、といって最後の男の子を降車させてあげていました。龍神バスさん、素敵。企業に雇われている運転手さんが、子供のお家を把握していて、その子の顔を見たらその場所に止まってあげるなんて、素敵すぎます。そしてあんなにやんちゃにはしゃぎ回っていたのに、
「ありがとうございました」
と言って降りていった、ちょっとふとっちょな男の子。
バスがゆっくりと動き出してから振り返ってみると、坂道の途中でこちらを見ていたので、手を振ってみました。すると、恥ずかしそうにぷいっと家の方に向かって駆け出しました。きっと、見慣れない大人の乗っているのが、最後まで気になっていたんだろうな。それにしても、元気な挨拶といい、停留所のない停車場といい、すっかり心温まってしまいました。当初の予定通りに旅をできていたら、とうに宿に着くか、ゆっくりと古道を歩いていた頃です。

そうして龍神バスを宿の近くの継桜王子で降りました。降りてバスがカーブの向こう側に消えていった瞬間に、はっ!!と冷や汗を書く私。バスの中にストックを置き忘れてきてしまった!!!走って追いかけようとしてみるも、バスのスピートにかなう訳がありません。ふと、紀伊田辺のバスセンターで貰った時刻表をみると、次の停留所が終点と書かれています。これはもしや、と思い通り沿いでしばらく待っていると、すぐに折り返してきたバス!
手を振って運転手さんにアピールすると、静かにバスを止めて下さり、乗り口のドアが開き、私のストックはすぐに目に入る、手に取りやすい場所に起き直されていて、
「お忘れ物ですねー。」
と声を掛けて下さいました。
「すみませんでした。ありがとうございました。」
というと、なぜか照れくさそう、というかちょっと申し訳なさそうに会釈する運転手さん。申し訳なさそうに会釈したいのはこちらです、と思うも、その控えめな人柄が伝わってきて、どこか客観的に「いいな~」と思っている私がいたり。そうして無事に戻ってきてくれたストックを手に、再びゆっくりと走り始めるバスを見送りました。
ありがとう、龍神バスさん。



しかし、しかしです。
1週間前から予約していた宿を尋ねると非常にショックな宣告が待っていました。

「今日はガスがでないんです。料理も風呂も用意できません。申し訳ないが、よそへ行ってくれんかね。」

オーノー!オーマイガー!!
だったら今朝にでも電話が欲しかった。なにもやってきてから告げなくっても。と、心で嘆いたところではじまらないので、早々に諦め、近くの宿の電話番号等を伺うも、うろ覚えの番号を適当に教えられてしまったので、とりあえず最寄りの宿への行き方だけ教わって歩きはじめました。はぁ。

この道のり、不安で不安で、また、かなり強引に誘ってついて来てくれた友人に申し訳ない気持ちもいっぱいで。もしもその宿でも泊めてもらえなかったら・・・まさか、冬山で何の装備もなく野宿!?
アルゼンチンの寒い山奥での巡礼登山がふと頭をよぎる私。地べたに寝袋1枚。ああ、あの翌日の発熱。身体の芯が常に震えていたっけ。くわばらくわばら。

そんなフラッシュバックとともに黙々と歩いて30分ほど。
宿に到着。

呼び鈴を鳴らす。
・・・。
応答なし。


再び呼び鈴を鳴らす。
・・・。
応答なし。

心は半泣き。

とりあえず、人がいないか宿の周りを見て回る。
いない。

なんとかもう一度呼び鈴を鳴らす。
・・・。

「はーい」
と、女性の声!!
ガチャッと扉が開くと、ちょっと驚いたような表情の奥様。

「あの、実は予約していた民宿◯◯さんに今日はガスが出ないからよそへ行ってくれと言われまして、一番近いこちらを訪ねてきました。今日、泊めて頂けますか?」
と、ことの成り行きをお話しすると、ガスが出ないという宿泊拒否の理由にクエスチョンマークを浮かべながらも、
「とりあえずお部屋はありますからどうぞ~」
と、すぐさま部屋に案内して下さいました。

捨てる神あれば拾う神あり。
熊野にはたくさんの神様がいらっしゃる。
そういや龍神バスだって、龍神さまじゃないか。
私の頭の中ではすでに、「女将さん」は「お神さん」へ。

おカミさんは、案内しながら
「ただ食事の用意ができないんですよ。ちょっと待ってて下さいね。今近くの食堂に聞いてみますから」
と、部屋の鍵を開け、座布団を出し、すぐにお茶も用意するからと言いつつ、色々なことをてきぱきと段取って行かれます。素敵。おカミさん。
その部屋で荷物をおろし、上着を脱ぎ、テレビをつけ、鼻をかみ・・としていると、すぐにおカミさんは戻ってこられて、
「もし今すぐで良かったら食堂やってるみたいだから、車でお送りしますよ」
との朗報を持ってこられたので、脱いだ上着をまたすぐに羽織って、食堂へ向かいました。

食堂で頂いた天ぷら定食は、言うまでもなく、とても美味しかったです。
おカミさんの涌かしてくれたお風呂は、言うまでもなく、とても温かかったです。
屋根のある部屋に布団を敷いて寝られるありがたさ。

ほんの少しだけ、100年前、200年前に熊野古道を歩いた人たちと同じ気持ちを共有できたのかもしれません。

つづく