『さくらん』という映画を見てきました。
土屋アンナさんが主演の吉原の花魁のお話。蜷川実花さん初監督作品。既にカメラマンとして人気を博している彼女は、演出家・蜷川幸雄さんの娘さん。日本のソフィアコッポラ? あ、マリーアントワネットも見たいんだった!

というのはさておき、遊郭の文化というのは、そもそもが人身売買されてきた女性達の暮らしと仕事の場であったり、当時の社交の場でもあったり、きらびやかだったり妖艶だったり「あはれ」だったりどす黒かったり、本当に私の想像の及ばないくらい奥の深い場所だったのだろうと思います。そういう世界に、自分がいたらという想像はなかなかできませんが、永井荷風の小説や、私の大好きな杉浦日向子さんの漫画や著書で垣間みる吉原というのは、とても魅惑的な世界として描かれていて、妙に心ひかれてしまう所があるんです。
3~4年ほど前、古本屋さんで『吉原はこんな所でございました(著:松葉屋女将 福田利子)』という本を見つけて、わっ、読んでみたい!と思たのですが、なかなかこれをレジに持っていくには勇気が必要だったので、しばらく立ち読み・・・(汗)。だけどもあまりにページを繰る手が止まらなくなってしまったので、これはもう仕方がないと思い購入しました。
かつて引手茶屋であった料亭の女将さんだったという福田利子さんのとても柔らかい語り口で、吉原の女性達の生活が描写されているのですが、読んでいると静かな衝撃が何度も迫ってきます。しかも、読み始めてから気づいたのですが、私が購入したその本、著者のサイン本でした。ご本人の手で書かれたそのサインを見ていると、この本に書かれている事がますますリアルに感じられます。
その内容に関しては、興味のある方は本屋さんで見つけて読んでもらうか、もしかすると、この『さくらん』を見て頂ければ、私の説明など必要ありません。そんななぁ野暮ってもんだい。
それよりも、私から提供できる情報と言えば、桜鍋。前にもここで・・・書いたかと思ったら書いてなかった!(笑) えっと、イノシシのお肉をぼたん肉、鹿のお肉をもみじ肉というように、馬肉のことを桜肉と呼ぶのですが、その桜肉で作るお鍋が、桜鍋な訳です。馬肉のことは「けっとばし」という言い方もしますよね。これまで私が訪れた事のある桜鍋屋さん(けっとばし屋さん)はふたつ。森下駅ちかくの『みの屋』さん、そしてもうひとつが浅草近く、吉原大門交差点の目の前にある『中江』さん。
かつて吉原に通った通人(つうじん、いわゆる通!ですね)たちは、まずは吉原大門(吉原への唯一の入り口の門)をくぐる前に精(馬力?)を付けるべく、もしくは吉原から出てゆく朝帰りの時に、この桜鍋を食べたんだそうで、中江さんはまだ吉原が賑やかだった頃、明治時代から100年以上変わらず営業していらっしゃるお店です。そして、当時はいくつもあったけっとばし屋さんの中で唯一現在まで残っているお店だそうです。
お店の建物や雰囲気、そして桜鍋の味は、私が生まれるずっと前の時代の文化を想像させてくれます。それはそれは、時間も空間も超えてゆくような素敵な旅です。

映画『さくらん』は、蜷川監督の独特の色合いや切り口で、ひとりの花魁の人生を描いた、とても分かりやすい吉原文化の教科書のような作品でもあると思います。そこからさらに「通人」の道へ踏み込みたいという方は(笑)、もしかするとこの『中江』さんで桜鍋を味わってみるといいかもしれません。なんて、なんでそんなガイドしてるんだ?私は(笑)。

ご参考までに。
桜なべ 中江
http://www.sakuranabe.com/