江戸の味覚を味わおうと言う、私の両親よりも年配のおじさま方の会に、どういう訳かいつも私一人<若い><女性>(相対的にね・・・汗)として参加させて頂いています。その会の名は、大亀沢菜花斉(オオカメサワナノハナサイ)。会員の名前の文字をとったものなんですが、何となくこの名前からして素敵でしょ?

今までも王子の卵焼きや、神田やぶそば、神田鶏すき焼きの牡丹などなど、それはそれは私の年代では行くことの出来ない様な素敵な場所にご一緒させて頂いてきました。
そして昨日、1年に4回くらいの割合で行われる、久々の大亀沢菜花斉定例会で出かけたのは、深川は高橋(たかばし)にある、どぜう伊せ喜(いせき)。
恥ずかしながら、福岡県柳川市のすぐ近くに生まれ育っていながら、どじょうを食べたのは昨日が初めて。という訳で、この会で食べるものは大体が「はじめてですぅ~」なんて、ここぞとばかりに若さを振りまきながら食するものばかりですが、今回も不安と期待を胸に、午後6時15分、森下駅6番出口に集合しました。

お店の予約は6時半。江戸の味覚を楽しむこの会には、遅刻する人はいません。駅での待ち合わせも、お店まで歩く時間をいつも少し余分に取ってのもの。日が短くなってきたねぇなんて言い、どこからともなく漂ってくる香ばしい焼き物の香りにちょっと寄り道しそうになりながら、下町の通りを歩いて行きます。

実はこの伊せ喜さん、以前から知っていたので、その店構えの粋なカッコ良さにいつか行ってみたいと思っていた所でした。でもでも、そうそう若いモンが気軽に入れる店構えではありません。その憧れの大きな暖簾をおじさまたちと一緒にくぐると、まず、ぷ~んとネギの香り。ん? と思っているうちに、お店の中の雰囲気にも魅了されてしまいます。どうしてでしょうねえ、ちょっとだけ緊張の面持ちでくぐったはずの暖簾の奥なのに、掘りごたつの席に腰を下ろした時には、すっかりリラックス。ネギアロマのせい?それとも、ぬくもりと洗練の両方を感じさせる内装のせい?? とにかく快適。

おしぼりで手を拭きながら、おじさまたちはわがままに注文をしようとされ始めたのですが、いきなり熱燗でも、いきなり地ビールでもなく、最初はやっぱり瓶ビールで乾杯だ!と、誰かがまとめてくださいます。ここは私の役目とばかりに、どうぞどうぞと、おじさまたちの手の中のコップにビールを注ぎ、かんぱ~い!! おめでとう!!
・・・おめでとう? 誰かが乾杯をする時に、おめでとうと言われていたので、つい野暮な質問。どうして今日はおめでとうなんですか? すると、まあこういうときは、おめでとうと言っておいて間違いはないよ、はっはっは。 なるほど。そりゃあ、めでてえ!

談笑してるうちに運ばれてきたのは、これ。

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しかも、18人前。
この1皿が2人前らしく、9人出席した今日は、このお皿が一気に9枚テーブルの上に運ばれてきました。た、食べれるの?
これは見ての通り、どじょうを開いたもの。どじょう鍋の時には、こういう風に開いてある程度骨を取っておく場合と、開かず丸のまま鍋に入れる場合とがあるらしいのですが、おじさまたちは「骨が噛めねぇからな」ということで、満場一致の開きの方、通称<ぬき>での発注でした。

テーブルの上には3台の鍋がセットされ、割り下を注ぎ、沸騰したらどじょうと豆腐を入れ、どじょうの下に隠れていたゴボウをぱらぱらと投入します。幸い私の隣は、鍋奉行さん。無駄口を叩くこともなく、もくもくと鍋を調理して下さいます。ゴボウの後は、七味や山椒をふりかけ、更に、お店に入った瞬間に鼻をくすぐったネギをどっさりと入れます。このネギ、予約をしていた私たちの席には最初から置かれていて、内側が塗ってある大きな長方形の升みたいなものの中に、塗り箸、薬味とともに入っています。これで1セットになっていて、おかわり自由。で、おかわりの時にはマスみたいなものや塗り箸ともども、ささっと取り替えてくれます。

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ちなみにこの写真は、割り下入れ。割り下には2種類あって、薄いのと濃いの。濃いのの器は1枚目の写真にひっそり写ってますが、陶器に濃い割と書いてあります。一方うすい割り下の方はコレ。うすの<う>の点が、使い込んであるため消えてしまっています。道具っていうのも味わい深いもんです。うむ。

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ぐつぐつ。
どじょうは、開いてあるせいか思ったよりもずっと火が通るのが早く、板わさやお新香に手を付ける間もないまま、出来上がります。そして、急かされるままに、ひとくちでパクリとほおばります。

ん! おいしい!! 全然泥臭くない!!
これがどじょうデビューの私の第一声。

割り下の醤油の香りとほんのりした甘さが、短い時間なのに結構しっかりしみ込んでました。私たちが注文した<ぬき>は、丸のまま食べるのが苦手な人用に考案されたものだそうで、どじょうのすきやきといった感じ。好みで、生卵を絡ませて食べます。中には当然、「風味がなくなっちまうから」と言って、卵を断固使わないおじさまもいらっしゃいます(笑)。でも私は、このすきやき風に生卵を絡めて食べるのが好き。まだまだお子ちゃまの味覚かな? とにかく美味しく食べることが一番です。
どじょうを食べてすぐ、熱燗を口に含むのも一興。
吹きこぼれた割り下が、コンロの隅っこで焦げていく香りを肴に飲むのも、また一興、です。

こうして1人2人前をしっかり平らげ、テーブルの上には空いた徳利がゴロリ。
「もう食べれないですぅ」とここぞとばかりに再度若い女性風に振る舞う私に、ゴソゴソと白いレジ袋に入った何かが手渡されました。
中身はコレ。

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おはぎ。それも、粒あんとこしあんの2種類。
待ち合わせに早く着いてしまったおじさまたちが、すぐ近くの甘味屋さんに入ったところ、そこの女将さんがとても愛嬌のある人であったため、白玉あんみつだけじゃどうにも気持ちが収まらず、ついついお土産も買ってしまいたくなったのだそう。か、かわいい。小さな恋の証、ですが、しっかり私の胃袋の中におさめさせて頂きました。

お店を出るとおじさまたちは、橋を渡ってすぐに清澄白河という駅が新しく出来ていたということを知り、「なんだ、森下よりも全然近いじゃないか~」「誰だ、森下に人を集めたのは~」などと笑いながら、タクシーや半蔵門線や大江戸線の改札の向こうに三々五々。

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私ははじめから知っていました、清澄白河の駅の方が近いって。とは言えませんでした。


どぜう伊せ喜:
http://www.dozeu-iseki.com/