ミラノ・コルティナオリンピックで銀メダルに終わった坂本花織。世界選手権に出場するか迷っているという報道もあったが、実際は帰国した頃には腹は決まっていた。世界選手権に出たいと。
が、それですんなりいくかと言えばそうではなかった。あるひとつの壁があったのだ。
それは渡辺倫果だった。毎年、代表が決まると同時に補欠選手も選出している。万が一、代表選手が世界選手権等、試合に出られなくなったときのために、準備しておく選手だ。補欠とは言え、存在感は絶大で必要不可欠。村上佳菜子が引退発表したのは、代表が決まるリンクの上だったが、引退宣言してもリンクから直ちに離れるわけにはいかなかった。なぜなら、補欠選手になったからだ。代表にはなれなかったが同じように準備しておく必要があった。だから、佳菜子の正式な引退発表は世界選手権が終わってからだった。佳菜子はタレントの道に進んだが、いまでも時間を見つけてはリンクの上に立っている。引退して数年経ったが、いまでもキレッキレのスピンを見せることができる。
今回の補欠第1位は渡辺だった。坂本はオリンピックで終えるつもりだったので、今年初めの頃にも、渡辺にしっかり準備するように伝えていた。
つまり、ここにきて、急に世界選手権が出たいと言い出すのはわがままのように見えた。私の代わりに準備してくれてたのに、許してくれるだろうか・・・。
帰国してすぐに渡辺に連絡を取った。そして、世界選手権に出たいと言った。
すると、渡辺はすぐに快諾したと言う。私もかおちゃんの演技をもう一度見たいと。
こうして坂本の世界選手権は実現した。渡辺のあまり知られていない苦労も背に受けて、坂本は渾身の演技を見せ、100%完璧なパフォーマンスを見せた。なんともかっこいい終わり方ではないか。
中野園子コーチに伝えると、1週間休みなさいと言われ、実際に10日間休んだ。すっかりリフレッシュして練習に取り組んだ。スケートへの情熱を胸に、チェコ・プラハに向けて動き出したのだった