坂本花織はフリーの演技『愛の賛歌』を情感こめて演じきった。集大成にふさわしい演技だったことは間違いない。
が、金メダルに届かなかった。それはたったひとつのミスだった。そのミス以外はどのエレメンツも完璧で非常に高いGOE(出来栄え点)が加点されていた。ステップシークエンスもスピン3種もすべて最高評価のレベル4だった上に1.00以上の高い加点がすべてついた。コレオシークエンスに至っては2.00という破格のGOEだった。
だから、このたったひとつのミスが悔やまれた。それはトリプルフリップトリプルトーループという連続ジャンプの予定が、単独のトリプルフリップになってしまったのだ。フリップ着氷後、バランスを崩しかけて転ばないように体勢を立て直すだけで精一杯だった。
冒頭から2本目にトリプルフリップをすでに跳んでいた。同じジャンプの繰り返しで基礎点は70%になってしまった。大きな得点源だった。この痛い減点が無ければアリサ・リュウに勝っていたのだ。いつもの坂本なら執念で無理にでも連続ジャンプにしたはずだ。1回転でもいい、無理にでも連続ジャンプにしていたら、繰り返しの70%でなくなるから減点幅を抑えれたのに・・・、なぜか跳ぼうとしなかった。
なぜ、こんな事態になったのかと言うと、もともと、坂本のプログラムは超難度だからだ。普通の選手は最初に連続ジャンプを跳んでおく。もし、失敗して連続ができなくても、後の単独予定のところで連続ジャンプに切り替えれば問題ない。リカバリーと言って、あとで挽回できるように組む。
が、坂本は逆だ。最初に単独、後半に連続という構成だ。なぜ、そんな無謀なプログラムにしているかと言うと、後半は基礎点が1.1倍になるから。なので、決まれば超高得点となる。0,1倍増えたってたいしたことないように見えるが、まったくそんなことはない。無謀だけど、僅差の勝負が多いのでトップ選手たちには魅力的な得点源なのだ。
もうひとつの理由は坂本らしさからだ。無謀な作戦ゆえに失敗が許されない、リカバリーできないんだから。が、そこへ自分を追い込んでいく、逃げ道を自らふさいで果敢に攻める・・・それが坂本なのだ。
最後に跳んだトリプルループにトリプルトーループをつけて連続ジャンプにすれば良かったのではという意見もある。坂本も演技中、一瞬考えたと言う。が、やめた。
「ループのあとにトゥをつけたことがないから自信がなかったし、これ以上マイナスになるようなことは避けたかった、確実性を選んでやめた」
と、演技後、コメントした。
確かにその通りで、やらないで大正解だった。もし3回転できず、2回転トーループになってしまったらそれが3回目の繰り返しとなり0得点になってしまう・・・意味がないジャンプになってしまうのだ。
そして、もうひとつ、無理に連続ジャンプにすると流れが止まり、BGMの曲との融合性、曲と振りが合っているかなどの演技構成点に大きく響くから、しないで正解だった。坂本は演技構成点に重点を置く姿勢を貫いたと言える。
銅メダルの中井亜美との差は5.74。演技構成点は6.92の差。開きがあるから3位落ちは考えられないが、やはり、4回転よりも完成度を高めていくフィギュアを滑った坂本は銀メダルを勝ち取ったと言えるのだ





