連日、放射線治療に通っている。
今回は1度の照射量を上げて、日数は半分。
いつもなら、折り返し地点で疲れも貯まってダレてくるのだけど、月曜日から始まった照射は今日で最終日
食道や胃の周りに当てて、食事を摂りやすくするための照射だから効いてくれるといいな。
息子が主治医から、しつこくしつこく
「あと1ヶ月」
と言われて、
「しつこいなぁ。1度言えばわかるから、息子の前で何度も繰り返し言わないで欲しい」
と思っていた。
心の中では、
「息子はそんなに簡単に死なないし、死なせない!」
っていう思いもあった。
主治医もケースワーカーさんも、やたらと訪問看護を勧めてくるから、病院は見捨てたがっているように感じた。
今振り返ると、始まりは病院へ行こうとしている時に、玄関で息子が盛大に転んだ時から始まっていたような気がする。
玄関には段差があるので、スロープブロックを置いてある。
息子が外へ出ようとした時、踵がブロックを踏み外したように見えた。
後ろへひっくり返ったと同時に、体勢を戻す為に前に重心をかけた。
そのまま頭から前に突っ込む形になり、たまたま灯油缶を入れるコンテナボックスがあったので、地面に頭を打ち付けることは無く、コンテナボックスにぶつけてコブができただけで済んだ。
だけど、普段の息子から考えるとありえないことだった。
息子は運動神経がとてもいいので、たとえブロックを踏み外したとしても、バランスを崩したとしても、すぐに立て直せるのであんなに大きく転がることは無い。
たぶん、あの頃から体幹や脚の筋肉が無くなって行ってたのだと思う。
その後、すぐに息子は歩行困難になっていった。
食事はなかなか摂れず、あっという間にガリガリで関節だけが異様に目立つ体形になっていった。
顔はヒポクラテス顔貌と呼ばれる頬がこけ、目の周りは窪んで真っ黒になり、皮膚も見るからにカサカサしていた。
抗がん剤をやれば骨髄抑制が起き、白血球は500前後まで下がってしまう。
体が抵抗できなくなっていたのね。
がん悪液質(体重減少5%以上・BMI20以下・骨格筋減少・経口摂取困難 ・全身炎症)で最も悪い最終段階、不応性悪液質の状態で、この段階まで来てしまうともう戻ることは無く、予後3カ月以内と言われている。
息子の場合は検査数値も最悪で、主治医は予後1カ月を強調し、いざという時のために在宅看護を急いだのね。
そんな息子、何故復活できたのか。
食べないなら飲ませようと、明治の宅配で毎日R1を1本届けてもらった。
普通のヤクルト、プリン、ゼリー飲料で息子の部屋の小さな冷蔵庫はいっぱいになった。
カロリーメイト的な栄養補助食品を、常に手の届くところに数種類おいて置いた。
息子は息子で、いろはすやきのこの山、ブラックサンダー等をネットで箱買いしていた。
食事の時間なんか無視。
食べられる時に食べられそうなものを口に入れて、胃腸に消化吸収のお仕事を忘れさせないようにした。
徐々にお菓子のゴミが増えていった。
ある日心配した娘が雑炊を作って来てくれた。
普段は雑炊なんて食べない息子、姉に気を遣ったのか雑炊を食べた。
そして完食できたことをとても喜んでいた。
その後あたりから、なんとなくまた食事が復活した。
食べたく無いと言えば、
「あら、○○(娘)の雑炊は食べられるのに、ママの作ったご飯は食べられないって言うの?」
と、ほとんど脅しのような日も
そうやって、朝は元々食べない子だったけど、夕食だけでも食べて欲しいと、少量でも高カロリーなもの、例えばがんには牛肉や豚肉は良くないとされるけどそんなのは無視。鶏よりも牛や豚の方がカロリーが高い。お魚もカツオやマグロなどの赤身のお魚、そして白身だけどタンパク質の多い鰻とか。あとはガンに良しとされる海藻、キノコ、ブロッコリーやほうれん草。緑の野菜は嫌いな息子だけど、料理の方法によってはこの2つは食べられる。
病院の帰りには、息子の大好きなラーメンや回転ずしに誘う。
最初は2,3口しか食べられなくて残していたも、回を重ねるうちに食べられる量が増えて、とうとう完食できるようになった。
この頃になると、顔色はとても良くなって目力も戻って来た。
抗がん剤で死期が早まるから中止と言われ絶望したあの日、
「帰りに検査に出すから血液採ってって」
と言われ、採血をして帰宅する。
息子はとっても怖かったと思う。
「死」から逃れることはできない状況で、無理を言えば抗がん剤を続けてもらえるかもしれないが、効くかどうかもわからずに体がもたずに最後の時を早めてしまう可能性がある。
かと言って何もしなければ、確実に「その時」はやって来る。
どうするのか、私は息子に聞かなかった。
息子の選択がどちらであろうと応援することには変わりないから。
ただ息子は、
「ぼくは死ぬつもりは無いから」
と言い続けていた。
私も息子の命を諦めることなんてできなくて、メソメソしながらも相変わらず高カロリーの料理を続けていた。
そして先週の診察。
ブログにも書いたように血液検査の結果が正常値に戻った
あり得ないことなので、主治医はやたらと頭を捻る。
常識も症例も関係無い。
だって息子は頑張ったんだもの。
あとは筋肉を戻さないと。
玄関に車を横付けするのを止めた。
ほんのちょっとの距離だけど歩いてもらう。
ぶーぶーと文句を言いながら歩く息子。
日常生活が一番のリハビリだからね。
恨まれたって関係無い。
先日の夕食時
「ご飯まだある?」
と聞いてきた息子。
おかわりするなんてどれくらいぶりだろう
おかわりされることがこんなに嬉しいなんて
ちょっとウルッと来てしまった
先日も、放射線治療が終わって病院を出ようとしたら激しい雷雨
丁度お昼時だし、病院のレストランでランチしながら雨宿り。
息子がかつカレーを頼むと言う。
さすがに無謀だと思ったけど、食べたいと言うのだから黙って頼んだ。
運ばれて来たかつカレーは、ご飯もすごい量だしカツも大きい。
最後の方はちょっと苦しそうだったけど、なんと完食してしまった
そして昨日の病院帰り。
抗がん剤が始まると味覚障害が出るから、その前に食べておきたいと少し離れたラーメン屋さんに寄った。
息子はツルツルとラーメンを食べると、替え玉を頼んだ。
それを完食するとソフトクリームもペロリ
最近、息子の顔はまぁるくなった
デカドロン(ステロイド)の影響もあるかもしれないけど、最高で4mg/1dしか飲んでない。
丸くなった息子の顔は幼く見えて親バカ全開でかわいい
あとは筋肉。
落ちるのはあっという間なのに、なかなか簡単には戻らない筋肉。
焦る必要は無いから、確実に戻して行って欲しい。
抗がん剤が始まれば、また食べられない日も出てくるはず。
だけど今回の放射線が効いてくれれば、食べ物の通りは今よりも良くなるはず。
抗がん剤に負けないで
がんに負けないで
奇跡なんてそうそう起こるものじゃないと絶望した時もあったけど、息子はその奇跡を起こしてくれた
未来の夢を語る息子の眼差しが熱い。
誰も息子の夢までは奪えない。