【再読】 田辺聖子『おちくぼ姫』 角川文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
平安版シンデレラ・ストーリーと名高い『落窪物語』。こちらはその途中までを現代語訳し、訳者の新解釈を加えて再編した作品です。文章はだいぶカジュアルで読みやすくなっています。
継母に虐められる薄幸の姫君・おちくぼが名門生まれの超絶イケメン・右近の少将と恋に落ち、困難を乗り越えて結ばれる恋愛物語です。
それでは早速、感想の方を。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
ヒロインのおちくぼは皇族の血を引くにも関わらず、継母たちからは酷い扱いを受け、着る物や食べる物にも不自由するような下女同然の暮らしぶりを強いられていました。落ち窪んだみすぼらしい部屋に住んでいることから付いたあだ名が「おちくぼ」です。普通に悪口ですね。
そんな彼女に、右近の少将は遊び半分で近付きます。しかし、一目見てすぐに恋に落ち、その後は真剣におちくぼを愛するようになります。
家格に縛られた窮屈な結婚、そして一夫多妻制が常識のこの時代に、「わたしのほしいのは、あなただけです。」と言い切る右近の少将。びっくりするくらい情熱的です。
そして本当に他の恋人を作らず、彼女一人を愛し続けたところが立派です。「帝からご皇女さまを賜るとご沙汰があってもご辞退する」とまで断言しました。聞いてるか光源氏。
私が一番好きなキャラクターはおちくぼの乳姉妹の阿漕ですね。
姫君の唯一な絶対的味方です。献身的におちくぼの世話を焼く、賢くて気の強い黒髪美少女。大正義。
夫の帯刀(こちらは右近の少将の乳兄弟)と共に物語を回す立ち位置ということもあり、表情豊かで生き生きとしたキャラクターとして描かれています。あと滅茶苦茶フットワークが軽い。『アラビアン・ナイト』のモルジアナと並ぶレベルの活躍を見せてくれます。作中のMVPは間違いなく彼女でしょう。正直、性格はそんなに良くはありませんが。
憎めないキャラの典薬の助も、個人的には結構好きです。腹下しの話を聞いて思わず笑ってしまう継母はちょっと可愛かった。
それから、兵部の少輔と四の君のカップルも好きです。おちくぼと少将のカップルより萌える関係性だと思います。この兵部の少輔は多分出家しないでしょうね。
そして最後は和解からのハッピーエンド。これが良い。シンデレラはどのバージョンでも継母たちとは和解していなかったような気がしますが、『落窪物語』はおちくぼが幸せになった「その後」をしっかり描き切ってくれる点が好きです。
原文と違う部分はいくつかありますが、これはこれでとても面白い作品です。古典の『落窪物語』を知っている人も知らない人も、楽しむことができるんじゃないでしょうか。
久しぶりに読み返しました。
それでは今日はこの辺で。