【再読】 森絵都『クラスメイツ〈後期〉』 角川文庫
昨日に引き続き、森絵都さんの『クラスメイツ』を再読しました。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
〈後期〉のトップバッターは、神経質でクラス中から疎まれていた元生活委員の久保由佳。そこから心平、田町、日向子、ノムさん、このちゃん、近藤、楓雅、レイミー、真琴、イタル、ヒロと続きます。十月から始まり、合唱コンクールや持久走大会などを間に挟みつつ、第一学年の終わりまでが描かれていきます。
〈前期〉で起こった問題が少しずつ解決していく様子が印象的でした。田町が登校するようになったり、近藤の生活態度が良くなったり、ゆうかと美奈が仲直りしたり。クラスが徐々に良い方へと変わっていくようで、見ていて嬉しかったです。最後の最後でようやく一つに纏まってきたな、という感じです。
二月にバレンタインがあることもあって、こちらでは男女の距離感についての描写が特に目立っていました。
田町と陸、由佳にシンパシーを抱く楓雅、真琴が気になる近藤、敬太郎を好きなしほりん、蒼太にチョコをあげたレイミー、イタルと真琴、ヒロと里緒、などなど。
個人的には、田町と陸の間にあるような、恋愛感情とまでは言えないくらいの絶妙な好意が好きです。虫除けリングをお守り代わりにしている田町ちゃんが最高に可愛い。〈前期〉での、陸のデリカシーに欠けた「なんで学校に来ないの?」発言もあまり気にしていなかったようで良かったです。
アリスと心平がくっつかなかったのは残念ではあるものの、最後に里緒とヒロが良い感じになりそうだったので満足しています。
蒼太とレイミーのコンビも結構好き。レイミーに振り回されっぱなしの蒼太が可愛かったです。小梅チョコ、意外とイケそうな気もするんですけどね。
〈後期〉のキャラの中で私が一番好きなのはこのちゃんです。天真爛漫で成績優秀、バスケ部でもレギュラーの器用な女の子。彼女が主人公の「プラタナスの葉が落ちるころ」は物語としての完成度がやけに高い。これを膨らませて中編小説一本くらい書けそうです。同じボランティアグループのメンバーが千鶴、ゆうか、敬太郎、タボの可も無く不可も無くなメンツだったこともあって、キャラクターの動きよりもストーリー展開やこのちゃんの心情描写に注目しながら読むことができました。〈前期〉〈後期〉合わせた中でも一番好きな回です。
男子で印象的だったキャラクターは風雅とイタルです。
ヴァイオリン王子の楓雅はクラス内でも独特な立ち位置。久保由佳に一票入れたのが彼だと判明したときには納得しました。たしかにこの二人は何となく似ているような。
ガラス戸割ったのだけは謝った方が良いと思いました。蒼太に。
もう一人のイタルは下品で不潔で嘘つきなクラス一の問題児ですが、彼が主人公の回を読むと、根はそう悪い奴ではないということが分かります。自分に正直なだけで、彼自身に悪意や害意は殆どありません。ただ単にお馬鹿。もう一周回って愛おしくすら思えてきます。ただノムさんにだけはガチで土下座した方が良い。
それから、久保由佳と日向子や、レイミーたちのグループ、真琴回での里緒とアリスなど、女子同士の友情も〈前期〉同様しっかりと描かれていて読み応えがありました。里緒→アリスへの感情が相変わらず重い。良い友達ですね。
そして、主人公にはならないものの時々登場する担任の藤田先生。何でもかんでも水泳部に繋げようとする水泳部勧誘の鬼。この人もキャラが立っていてかなり好きです。実際に近藤・タボ・吉田くんは水泳部で上手くやっている様子なので、見る目があるというか、担任としてはだいぶ優秀な人だと思います。面白い人です。
以上、〈前期〉〈後期〉合わせて全部で二十四名。
読んでいるうちに自分も一年A組の生徒であるかのような気になってしまったので、最後のクラス会の描写ではちょっとうるっときました。こちらまで、一年間ありがとう、お疲れ様でしたという気持ちになりました。
この作品は一つ一つの話の順番が、本当に秀逸だと思います。最後をヒロで締めたのが良かった。欲を言えば、担任の藤田先生視点の話も読んでみたかった気もしますが。
北上次郎さん、椰月美智子さんの解説も面白いので、ぜひそちらも合わせて読んでいただきたい。
軽く読めるのに、しっかりと深みも感じられる青春小説です。興味のある方はぜひ。
それでは今日はこの辺で。