【再読】 乙一/ミヨカワ将『山羊座の友人』 ジャンプコミックス 集英社
本日はこちらの作品を再読しました。
原作・乙一さん、漫画・ミヨカワ将さんの作品です。
現代日本が舞台ですが、ストーリーの中心にはファンタジー要素があります。私の主観ですが、全体の雰囲気が何となくアニメ版『時をかける少女』に似ている気がしました。まあ、内容は全く違いますし、あちらはどちらかというとSFですが。
それでは内容について書いていきたいと思います。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
主人公の松田ユウヤは高校一年生。ごく普通の男子高校生です。正義感はありますが、学校ではその他大勢の生徒同様、不良もいじめも見て見ぬふりの事なかれ主義でした。若槻ナオトという男子生徒がいじめられているのを目にしても、目を逸らして素通りしています。
しかしある晩ユウヤは、いじめの主犯だった金城を撲殺した直後の若槻と遭遇してしまいます。今まで若槻がいじめられていることを知りつつ、関わらないよう無視していたユウヤでしたが、そこで初めて、彼を助けるために行動することを決めました。
容疑者として疑われている彼を匿い、一緒に逃亡します。
このユウヤの行動ですが、実は彼の持っている「未来の」新聞の切れ端が原因となっています。風に乗ってユウヤのもとに流れ着いたそれには、今回の事件のこと、そして「事情聴取中の高校生が、容疑を認めた後、首吊り自殺した」ということが書かれていました。
ユウヤがその切れ端を手にしたのは、金城が殺される前です。書かれている通りに殺人事件が起きた以上、放っておけば若槻は新聞の結末通りに自殺してしまうことになります。
その未来を変えるため、今まで見て見ぬふりを続けてきたことへの罪悪感もあって、ユウヤは若槻を救うための道を探すことにします。
ちなみに、自宅の彼の部屋には未来の新聞の他にも、不思議なものがいろいろ吹き飛ばされてきます。袖が四つあるシャツとか、子犬とか、賞味期限が二百年前のスナック菓子の袋とか、昭和七十五年度の卒アルとか。昭和は六十四年までのはずですが。それからタケコプターらしきものもありました。これらは一体どこの異世界から流れ着いたんでしょうね。
風の通り道にある部屋の、異世界の物が漂着するベランダ、なかなかロマンがあります。
東京に逃亡した二人でしたが、結局、ユウヤは若槻の自首を止めることはできませんでした。
実際には金城殺害の犯人は若槻ではなく、彼は真犯人を庇って罪を被るつもりなのだ、というところまで看破し、その後、真犯人の女子生徒・本庄ノゾミを問い詰めたユウヤ。
若槻を救うため、ユウヤも必死です。
この場面は何度読んでも辛い。
ユウヤと本庄は友人同士でした。正義感が強く真面目な本庄を尊敬していたユウヤ。ユウヤに好意を抱いていた本庄。本庄に好意を抱いていたからこそ、彼女の罪を被った若槻。
金城に弄ばれて自殺した家族(おそらく姉)の仇を取るため、同じく家族を彼に殺された男子生徒と共謀し、今回の事件を起こした本庄ノゾミ。
最終的に彼女は自首することを選びました。
その後にユウヤと本庄の過去回想場面が挟まれるのが本当に心を抉ってきます。
新聞の切れ端に、「容疑を認めた後、首吊り自殺した」高校生の性別が書かれていなかったのが重要な点でした。
結果としてユウヤは若槻を救うことに成功しましたが、もう一人の友人を失いました。
ユウヤはどうすれば良かったんでしょうね。
あの新聞には高校一年生(性別不明)としか書かれていなかったわけで、もし本庄が自首しなければ、やっぱり若槻の方がそのまま自殺していたのではないでしょうか。ユウヤがどんな行動を取っていたとしても、本庄、若槻、佐々木の誰かは必ず死ぬ運命だったのでは、と私は思っています。
ラストシーンの本庄さんの笑顔が切ない。
非常に読み応えのある一冊です。
物語としての完成度が滅茶苦茶高い。
冒頭の、いじめにより自殺した中高生の例を挙げていくシーン、あれが全て男子生徒だというのもミスディレクションの一つでしたね。
山羊座、アザゼルの山羊、駅に現れた山羊、要所要所に散りばめられた「山羊」というキーワードも印象的でした。
絵も綺麗で、特に人物の表情が非常に上手かったです。泣きそうな顔、呆然とした顔がリアルで、思わず引き込まれます。
ユウヤも若槻も本庄さんも皆優しい子で、だからこそ三人とも幸せになって欲しかった。本当に切ないお話です。
推理要素もあるので、ミステリが好きな方にもおすすめです。興味がある方はぜひ。
それでは今日はこの辺で。