【再読】 辻村深月『図書室で暮らしたい』 講談社文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
昨日に引き続き辻村さんの作品ですが、こちらは小説ではなくエッセイになります。
早速、内容について書いていきたいと思います。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
エッセイということで、辻村さんも惜しみなく自分の情報を書いています。お酒が全く飲めないとか、実家が山梨の果樹農家だとか、プロフィール以上の情報が満載です。
この作品には日常生活や過去の思い出についての様々なエピソードが収録されていますが、中でも特に印象的だったのは、辻村さんがグアムに行ったとき、ホテルのラウンジの本棚が自分の本棚そっくりのラインナップで驚いた、というお話です。
その本棚にはミステリやSF、ホラーなどの少しマニアックなジャンルで、自分の好きな作家さんの作品ばかりが並んでいたそうです。凄いですね。しかも日本ではなくグアムのホテルなわけですから、こういう偶然は奇跡と呼びたくもなります。
ラウンジなどに限らず、他所の本棚をチェックするのって結構楽しいですよね。私はよくやります。流石に人の家の本棚の場合、ジロジロ見るのは失礼なのでさり気なく覗く程度ですが、そこに自分の好きな作品があったりすると嬉しくなります。
それがマイナー作品であれば尚更です。
このエッセイの第二章では辻村さんが自分の好きな作品を一つずつ挙げているのですが、それが私の趣味にもかなり近いので、初めて読んだときにはびっくりしました。
第二章の「好きなものあっちこっちめぐり」では、ドイルの『バスカヴィル家の犬』から始まり、田中芳樹さんの『創竜伝』、小野不由美さんの『屍鬼』。その他、筋肉少女帯やドラマ『相棒』などについても熱く語られています。
辻村さんが挙げた作品はほとんど私も読んだり視聴したりしたことがあるものでした。ただ少し好みにズレがあります。
私は田中さんなら『銀河英雄伝説』、小野さんなら『ゴーストハント』が一番好きです。
『ウォーリーをさがせ!』にしろ、「この本を好きでない子どもなどいるのだろうか。」というなかなか強気な一文から始まっていましたが、私はどちらかというと『ミッケ!』派でした。
『ジョジョの奇妙な冒険』も、辻村さんは四部が好きだそうですが、私は二部と七部派です。
好みの方向性は確実に同じなのですが、微妙にズレがあるのが、なんだか少し悔しいような、面白いような、不思議な気分です。
辻村さんに限りませんが、作家さんのエッセイを読むと、その人の経験や嗜好が作品に反映されていることがよく分かります。
これに書かれたものでは、『島はぼくらと』のサバを始め、母の卵焼きおにぎりは『ツナグ』に、思い出の本である『おひめさま がっこうへいく』は『ぼくのメジャースプーン』に、それぞれ登場していました。
それから、昔、喫茶店で隣席のご婦人から、一緒にいた友達のスーツのしつけ糸がそのままなのをこっそり指摘され、「あなたが切ってあげるといいわよ」と声をかけてもらった、というエピソード。当人に恥をかかせまいとわざわざ辻村さんだけを呼び止めて教えた、その気遣いに感動したというお話でしたが、これは『サクラ咲く』で紙音がマチのしつけ糸をさり気なく切ってくれるシーンに反映されている気がします。
他作品との関連を探しながらエッセイを読むのも、ファンとしての楽しみの一つです。
また、本人による自作解説もあります。取り上げられているのは数作のみですが、その中でも『オーダーメイド殺人クラブ』に寄せて書かれたものが特に興味深かったです。あの中学二年生の主人公の痛々しさ、内面描写のリアルさは、やはり実体験から来ていたんですね。納得です。
このエッセイに収録されているお話は、日常を描いたものが多いせいか、どれも思わず共感してしまうようなものばかりです。文章も読みやすいので、すらすら読めてしまいます。
普段はあまりエッセイは読みませんが、これは別です。何度も読み返しています。
そういえば以前、この本がきっかけで、辻村さんオススメの嬉野温泉湯豆腐を試してみたことがありました。そのままだと少し味気なかったですが、豚肉と野菜を入れたら美味しかったです。癖が強いので万人受けはしないと思います。豆乳鍋が好きな人には向いていそうですね。私は好きな味でした。
『かがみの孤城』の嬉野という名字はやはりこれが元ネタなんでしょうか。
このエッセイは辻村深月を知らない人でも楽しめるものではありますが、彼女の作品をいくつか読んでからこちらを読んだ方が、より楽しむことができると思います。
辻村ファンは必読の一冊です。
それでは今日はこの辺で。