佐藤多佳子『ごきげんな裏階段』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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【再読】  佐藤多佳子『ごきげんな裏階段』 新潮文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。最後に読んだのはかなり昔です。

子供向けの、ファンタジー要素の強い作品です。

それでは早速、内容について書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

築三十年のボロい「みつばコーポラス」。物語の中心となるのはこのコーポにある寂れた裏階段です。薄暗く、日光が当たらないため常にじめっとしている、少し不気味な場所です。
三編とも主人公は子供。この作品では彼らが裏階段にいる不思議な生き物たちと出会い、それぞれ交流を深めていく様子が描かれています。

『タマネギねこ』
四人家族と不思議な猫のお話。
主人公の学は小学生の男の子です。家は三〇六号室。裏階段で茶トラの子猫・ノラによく餌をあげています。
このノラは猫のくせに生のタマネギが大好き。皮付きのまま丸かじりします。そして、ノラは裏階段に生えた怪しいタマネギを食べたことで、変な姿のタマネギねこになってしまいました。体は子猫なのに頭はタマネギの形をしていて耳がなく、しかも人間の言葉を話す化け物猫です。こんなのが突然家に来たら、私なら卒倒すると思います。

このコーポはペット禁止なのですが、学と両親・妹は、ノラを家でこっそり飼い始めることにしました。
言葉を話すようになったノラは、気が強くてわがままなお嬢さん。お母さんの作ったタマネギスープを飲んで、良いバター使ってるわね、でも胡椒が多いわ、なんてコメントします。飼ってもらっている立場なのに基本的に態度が大きく、女王様然として好き勝手に振る舞う、まさに「猫」です。

ノラの体は滅茶苦茶タマネギ臭いのですが、洗ってやる度になぜか少しずつ体が縮んでいきます。タマネギの皮を剥くようにどんどん小さくなっていくノラ。そのうち、手のひらに乗るくらいになり、更に縮んで大福もちくらいになり、更に縮んでビー玉くらいになり、最後には消えていなくなってしまいました。その頃には家族全員がノラのことを好きになっていたので、皆大慌てで消えたノラを探します。

結局消えたタマネギねこは見つかりませんでしたが、翌朝、学は裏階段で普通の猫に戻ったノラを発見します。もう話はできないただの猫です。
それでも学や家族は大喜びで、これからも内緒でノラを飼うことに決めました。ペット反対派だった両親まで乗り気です。

女の子口調で喋るノラが可愛かったので、元に戻ってしまったのは少し残念です。
タマネギ猫のノラのためにタマネギ料理をたくさん作ってあげたお母さん、アレルギーを我慢してお気に入りのクッションを譲ってあげたお父さんの懐の広さには感服しました。良い人たちです。


『ラッキー・メロディー』
このお話の主人公・一樹も小学生の男の子です。二一二号室の叔父さんの家に居候中。リコーダーが下手で、五日後に迫ったリコーダーテストを前にかなり焦っています。
裏階段でリコーダーの練習をしていたところ、五センチくらいある巨大なクモから突然「へたっぴ」とダメ出しされます。

当たり前のように人語を話すそのクモは、二種類の笛を背負っています。ヒマワリの茎で作った笛と、ドクダミの茎で作った笛。ヒマワリの笛の音を聞くと幸運に恵まれますが、ドクダミの方はその反対で不運に見舞われます。それを知らずにうっかりドクダミの笛の演奏を聞いてしまったせいで、一樹は自転車にぶつかったりハトの糞が直撃したりと散々な目に遭います。二回目に聞いたときには更に酷い目に遭いました。

一樹はクモと交渉して、リコーダーテストのときに、自分の代わりにこっそり「若者たち」を吹いて欲しい、ヒマワリの方で、というお願いを聞いて貰うことに。
それには成功したのですが、笛による幸運はその演奏を聴いていたクラス全員+先生にも作用するため、一樹が得られたラッキーは本来の三十九分の一の、しょぼいものでした。落ち込む一樹。テストでズルしたバチが当たったんでしょう。

ですがそれから奮起して、あのクモと同じくらい上手くなってやる、と毎日リコーダーの練習に励むあたり、一樹は立派な子だと思います。その意気でこれからも頑張って欲しいものです。


『モクーのひっこし』
主人公は両親と共にコーポに越して来たばかりの七歳の女の子・ナナ。部屋は三一〇号室です。無邪気で好奇心旺盛な性格の持ち主で、裏階段のダストシュートから出てきた、煙男のモクーと友達になります。

モクーは自称「けむりおばけ」。その名の通り人型の煙で、常にモクモクしています。不定形なので空腹時は敷物のようにでろーっと地面に伸びてしまいます。
モクーが食べるのもやはり煙。料理の煙やタバコの煙です。魚はサンマ、肉なら牛肉をニンニク醤油で焼いた時の煙が好物だそうです。結構グルメですね。

最近は食べられる煙が少ないと嘆くモクーに、ナナのパパが知り合いのスナックで働かないかと提案します。このパパ、無邪気な性格で一々ノリが軽い。無責任や発言や行動のせいでよく奥さんを怒らせています。

タバコの煙が充満するスナックで煙を食べてエア・クリーナー代わりを務めつつ、その変幻自在な体を活かして煙のショーも行うようになったモクー。ピアノの音に合わせてクジラになったり、ウサギになったり。が、その後「空気が綺麗になりすぎて落ち着かない」という理由で店を追い出され、またみつばコーポラスに戻って来ました。モクー本人も店で働くのはあまり楽しくなかったようなので、逆に良かったと言えるでしょう。

最終的に、モクーはナナたちの家でパパのタバコの煙を食べて暮らし、パパが不在の時は三〇六号室のタバコ好きの奥様に貸し出す、ということで話が纏まりました。
三〇六号室の、ナナと同い年の女の子・くるみは「タマネギねこ」の学の妹です。ノラとモクーというそれぞれの不思議なペットを通じて、この二人も仲良くなれそうですね。どちらも裏階段で出会ったという繋がりもありますし。

以上、全三編でした。
どのお話も子供向けの易しい言葉で書かれているため、非常に読みやすいです。小学校低学年くらいの子でも読めるのではないでしょうか。

個人的には『ラッキー・メロディー』に登場するアリババ先生がお気に入りです。年増できつい性格の音楽教師で、学校一の嫌われ者。『タマネギねこ』では三〇一号室の口うるさい「有沢のおばば」として登場しました。こちらでも嫌われています。性格は最悪ですが根はそんなに悪い人物ではなく、面白いキャラクターだと思います。小学生の男の子に野菜ジュース(苦い)と麦芽クッキー(全然甘くない)を出すのは嫌がらせに近い気もしましたが。
 

本当に久しぶりに読み返したのですが、内容を忘れていた部分も多々あったので、新鮮な気持ちで読むことができました。懐かしい、というよりも、こんな内容だったっけ、といった感じです。

昔読んだ本を忘れた頃に読み返してみるのも、なかなか楽しいですね。

それでは今日はこの辺で。