草野たき『透きとおった糸をのばして』 | 本の虫凪子の徘徊記録

本の虫凪子の徘徊記録

新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【初読】  草野たき『透きとおった糸をのばして』 講談社文庫

 

以前書いた『ハチミツドロップス』と同じ作者さんの作品です。

主人公も同じく中学生の女の子です。

それでは、読んだ感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

主人公の香緒は、親友のちなみとの関係に悩む中学二年生の女の子です。
しっかりしていて、可愛くて、テニスの上手なちなみ。そんな彼女に、香緒はほとんど心酔しています。ちなみと過ごす時間が楽しくて仕方ない、ちなみとなら何をしても楽しい、といった様子です。
しかし、ちなみの好きな梨本くんが香緒に惚れていたのが原因で、二人の仲は一気に悪くなってしまいます。というより、ちなみが香緒を避け始めます。香緒の方は梨本くんなんてどうでもよく、自分とちなみとの関係の方を気にしています。八つ当たりされる梨本くんが不憫ですね。彼は何も悪くありません。軽音部のギター担当、頼りがいのある良い男の子です。

徹底的に自分を無視するちなみに対して、じっと動かず待ち続ける香緒。二人は同じテニス部所属なのですが、エースのちなみがそんな態度を取っているため、だんだんと他の部員たちも香緒に冷たく接するようになっていきます。ペアを組んでもらえなかったり、ユニフォーム決めの会議に呼ばれなかったり、嫌がらせというよりは二年女子の中で村八分にされているようです。合宿の夜、花火で遊んでわいわい盛り上がるちなみたちを横目に、一人でぽつんと線香花火をしている香緒。可哀想です。

普通だったら心が折れてしまいそうなものですが、香緒はそれでも毎日学校に行き、部活の練習にもちゃんと参加しています。そしてちなみが仲直りしようと言ってくれる瞬間を、今か今かと待ち続けています。クラスには仲の良い子たちも普通にいるものの、香緒にはただ一人の親友であるちなみのことしか頭にありません。

正直なところ、少し心配になってしまう程の依存っぷりです。おそらく、この一途な部分が、ちなみを疲れさせてしまったのだと思います。

ちなみも悪い子ではないんですよね。何も梨本くんのことを根に持ち続けて香緒を避けているわけではありませんし。梨本くんの件も原因の一つではありますが、やはり一緒にいると疲れる、というのが大きな部分なのでしょう。
一緒に遊んでいる時は楽しいけれど、だんだんと付き合い続けるのが億劫になってくる、という気持ちは何となく分かります。相手を嫌いになったわけじゃなく、ただ、そのうちに一緒にいても楽しいと思うことが出来なくなる。しっかり者のちなみに甘えっぱなしだった香緒にも問題はありますが、これはどちらかというと性格的な相性というよりも距離感の問題ですね。年月ではなく頻度として、この二人は一緒にいる時間が長すぎたのだと思います。

この物語に登場するもう一組の友人同士、知里ちゃんとるう子ちゃんはそれぞれちなみと香緒に少し似ています。

知里ちゃんは香緒の従姉妹の大学院生。ロンドンにいる香緒の両親に代わって面倒を見てくれている、綺麗で優しくて、知的で、おまけに家事まで完璧にこなす素敵なお姉さんです。

そして、知里ちゃんの高校時代の友人・るう子ちゃん。
元カレを追いかけて上京し、知里ちゃんのところに転がり込んできます。実際は知里ちゃんの下宿している「香緒の」家ですね。こちらは甘ったれで子供っぽい性格です。ですが、元カレの後をつけてクリスマスイブのデート先を突き止め、ゴージャスにおめかしした上でその現場に乗り込んでいくなど、なかなか度胸もあります。高級レストランでの修羅場に付き合わされた香緒と知里ちゃんにはいい迷惑でしたが。

図々しくて無邪気で、自分勝手。そんなるう子ちゃんにうんざりしているようで、冷たく接する知里ちゃん。それを見て、二人は友達なんじゃないの?と戸惑う香緒。

知里ちゃんからすれば、いつまでも一人の男にしがみついているるう子ちゃんはみっともなく見えるのでしょう。そして自分に正直なるう子ちゃんからすれば、好きな人を友人に譲って東京へ逃げて来た知里ちゃんは、確かに馬鹿みたいに見えるのだと思います。この二人、性格が根っこから正反対なんですよね。二人が本心を曝け出してお互いに傷つけあっている場面は、見ていて辛かったです。
でも、何だかんだ知里ちゃんはるう子ちゃんを追い出したりはしないんですから、本当に、人間関係というものは不思議だと思います。

今は苦手で、一緒にいるのも嫌な相手でも、昔は確かに「友人」で、共有した時間、思い出は確かに存在している。だからこそ、知里ちゃんは久しぶりに会ったるう子ちゃんに助けを求められたとき、それを拒むことができなかったんですね。それを考えると、作中の「透きとおった糸」という人間関係の表現はとても的を射ていると思いました。知里ちゃんの言うように、「一度そのひとを知ってしまったら、もう二度と知らないひとにはもどれない」のです。切っても切れない、細い糸。それは、嫌いな相手とも「繋がってしまっている」ということでもありますが、前向きに捉えるならばとても素敵なことだと思います。

香緒は最終的に、どんなに距離が遠くなったとしても、ちなみと自分の間には透明な糸が残るのだ、と理解したため、ちなみ以外にも目を向けて一歩を踏み出すことができました。
ちなみへの興味が失せたわけではなく、仲直りを諦めたわけでもなく、ただ少しだけ、肩の力が抜けたというか、必死さがなくなったように見えます。冷静になって、心に余裕が生まれたようです。
この二人は、前のように双子の姉妹のような関係には戻れずとも、気安く言葉を交わせるような、それくらいの関係で上手くやっていければ良いな、と思いました。

本筋についての感想は以上ですね。ここからは印象に残った部分のメモになります。

まずはるう子ちゃんの元カレ・豪助について。
ここの痴情のもつれに関してはるう子ちゃんの奇行ばかり目立ちますが、彼も大概ひどい男だと思います。

そもそも、三年間の遠距離恋愛の末、電話一本で別れを告げるのはあまりにも無情です。しかも、るう子ちゃんが健気に待っている間、すでに別の子と付き合っていたわけですよね?るう子ちゃんはもっと怒っても良いくらいだと思います。彼女さんの方も何も知らなかったようですから、彼女もレストランで真実を知ったときは傷ついたことでしょう。余計に豪助が下衆野郎に見えてしまいます。

そして、るう子ちゃんが最後に無理やり取り付けたデートの約束にも彼女を連れてきて、るう子ちゃんなんていないみたいにその子にばかり気を遣って。
まあもちろん、豪助の気持ちも分かります。もう彼女との結婚も決まっているわけだし、そうでなくてもこの精神的に不安定なるう子ちゃんと二人きりで過ごすのはちょっと怖いでしょうし。彼女や豪助からすればるう子ちゃんは「面倒臭い元カノ」でしかないわけですから。
迷惑行為を繰り返するう子ちゃんは、もちろん、ひどい扱いを受けても文句を言えない立場ではあります。が、それはそれとして豪助の行動もかなり非常識なものに感じました。悪い人ではないのでしょうが、良い男だとも思えません。るう子ちゃんは是非、次はもっと素敵な男性を捕まえてください。

それからもう一人、印象に残った人物は軽音部のドラマー・佐々木さんですね。梨本くんより目立つ描かれ方をしていたように感じます。
男勝りな性格で、ストイックで情熱的な女性ドラマーです。カッコいいですね。私は心の中で兄貴と呼んでいました。正直、梨本くんよりもずっと男らしかったです。
あと滅茶苦茶飴と鞭の使い方が上手いです。ライブ前に香緒にかけた一言、最高でした。もう性別とか関係なく惚れます。

場面として好きなのは、最初の方で香緒がちなみとの思い出を振り返るあたりです。
夏の夕方、部活後にアイスを食べながら二人でのろのろと歩く帰り道が何よりも好きだった、という香緒。すごく青春を感じました。私も、部活帰りに友達と駄弁りながらだらだらと歩くのは心地良かったです。今思うと、何をそんなに話すことがあったんでしょうね。当時はいつも同じ面子で集まって帰っていたのですが、よくも話題が尽きなかったものです。まあおそらく中身のないことをくっちゃべっていたのでしょうけれども。
 

それにしても香緒とちなみ、部活終わりにアイスは良いとしても、ジャイアントコーンはちょっと贅沢すぎます。中学生が部活終わりに齧るのならガリガリ君くらいが妥当でしょう。

私はジャイアントコーンなら赤いやつが一番好きですね。チョコナッツ。いつも青のクッキー&チョコと迷うのですが、結局赤い方を選んでしまいます。何なら限定味よりも赤を選びます。
書いていたら食べたくなってきました。

 

それでは今日はこの辺で。