ふるさと納税の寄付金を基準財政収入額に算入すりゃいい、でも決して抜本的解決にならず  | 永築當果のブログ

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ブログを8本も立て、“物書き”が本業にならないかと夢見ている還暦過ぎの青年。本業は薬屋稼業で、そのブログが2本、片手間に百姓をやり、そのブログが2本、論文で1本、その他アメブロなど3本。お読みいただければ幸いです。

 野田聖子総務相は9月11日、ふるさと納税制度を見直す方針を正式に表明した。過度の返礼品を出している市町村に対する度重なる総務省からの見直し要請に応じなかったからだ。
 といったニュースが流れている。
 そもそもこの制度「ふるさと納税」には大きな欠陥がある。
 以下、順を追って説明しよう。

 市町村行政で一番重要な仕事は、いかにして税収を上げるがであり、優秀な首長は企業誘致を成功させる。これによって法人住民税と固定資産税(土地、建物だけでなく、設備も課税対象)の大幅な税収増加が期待できるからである。
 だがしかし、これによって毎年10億円の税収があったとしても、実質上の収入増加は25%の2.5億円にしかならない。でも、これだけの収入増があれば行政サービス強化や新たな地域振興策を起こす原資として貴重なものとなる。

 なぜ25%か、これを説明しよう。
 日本のほとんどの市町村は財源不足しており、毎年国から地方交付税交付金をもらっている。
 その計算方法は次のとおり。
 基準財政需要額ー基準財政収入額=地方交付税交付金
 基準財政需要額は個々の市町村ごとに毎年都道府県が細かく計算し、最低限の行政需要に応えることができる額である。
 基準財政収入額は、法定普通税を主体とした標準的な地方税収入、これも毎年計算され、その総額の75%の額を言う。
 そこで、例えばA市の基準財政需要額が100億円で、標準的な地方税収入が100億円とした場合は基準財政収入額が75億円となるから、地方交付税交付金は25億円となる。よってA市の収入は125億円となり、最低限の行政需要100億円以外の独自の行政サービスや地域振興策に25億円を使うことができる、という仕組みになっている。
 同規模の基準財政需要額となるB市の標準的な地方税収入が40億円であったならば、基準財政収入額は30億円となり、地方交付税交付金は70億円、B市の収入は110億円となり、独自の行政サービスや地域振興策に使える額は10億円にしかならない。
 なお、財政力指数という物差しがあるが、これは基準財政収入額を基準財政需要額で割ったもので、A市の場合は0.75、B市の場合は0.3となる。市町村の全国平均は、約0.5。

 少しでもよりよい行政サービスや地域振興策を行うには、財政力指数を上げねばならず、つまり冒頭で言ったように企業誘致を成功させるなどして税収を上げるしかないのであり(もっとも実質上の税収増加は25%しかないが)、ここで市町村間の競争が行われるのである。もっとも、このような奇特な首長はまれにしか存在しないが。

 さて、ふるさと納税制度が始まって久しいが、ふるさと納税は「臨時の寄附金」の扱いとなり、「標準的な地方税収入」に算入されない仕組みになっている。同じ「納税」でありながら、その扱いが全く異なる。
 こうなると、首長にとって「ふるさと納税」ほどおいしい餌はないことになる。10億円のふるさと納税が手に入れば、丸々10億円が使えるのである。地道に汗をかきかき企業誘致して10億円の税収が入っても、交付税が7.5億円減るから、実入りは2.5億円。一方、ふるさと納税の場合は、市町村公式サイトにデカデカと「ふるさと納税をお願いします。豪華返礼品差し上げます。」とPRするだけでいいのである。ホームページ制作会社に100万円の委託費を払えば、かなりインパクトのあるページができるであろう。首長の中には、動画も入れて1千万円で委託するか、ということもあろう。
 そして、返礼品である。返礼品をケチっては、わずかのふるさと納税しか入らない。ここは大判振る舞い、ふるさと納税額以上の返礼品を送ったら赤字になるが、納税額の半分を返礼品に使っても5割の実入りだ。じゃんじゃん返礼品を出そう。
 商魂たくましい首長となれば、必然的にそうした行動に出る。どこが悪い、である。

 こんなことは当初から予想されていたことである。これが問題となってきて、次のとおり制度改革の提案をした市町村がある。それを総務省のサイトから引用しよう。
 幸田町 (愛知県)
 提案:ふるさと納税の寄付金を基準財政収入額に75%算入する。
 理由:ふるさと納税の寄付金獲得のため に制度を乱用し不適切な競争に発 展している。ふるさと納税の寄付金を基準財政収入額に75%算入することで適切な運用を確立したい。
 これに対する総務省の回答は次のとおり。
 基準財政収入額は、法定普通税を主体とした標準的な地方税収入である。したがって、ふるさと納税による寄附金については、基準財政収入額に算入しないこととしている。

 総務省は少なくとも、この幸田町の提案を飲むべきだろう。
 しかし、この場合にあっても、ふるさと納税額の25%が実質の実入りとなり、ふるさと納税額の実質の実入りの半額の返礼品、つまり12.5%の返礼品を出しても、うまみがある、止められない、となってしまう。
 これをいかにして止めるか。走り出してしまっているふるさと納税制度であり、もはや解決策はなさそうである。総務省が「一切の返礼品はダメ。領収はがきの郵送しか認めない」という強権的なお達しでも出せば別だが、そこまでの通達は地方自治法の精神に抵触して、できないであろう。
 残された道は、制度廃止しかないことになる。でも、これができそうでできない、それが日本という国。いやになります。
 県職員時代に、多少とも市町村財政指導に当たったことがある小生である。地道に企業誘致に力を入れ続けている首長、商魂たくましく合法的に県職員に賄賂を毎年贈り続ける首長、そういった首長を見てきて、どうしようもない今般のふるさと納税問題について、腹立たしさを覚えます。