千島学説:赤血球分化説をどう評価するか | 永築當果のブログ

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ブログを8本も立て、“物書き”が本業にならないかと夢見ている還暦過ぎの青年。本業は薬屋稼業で、そのブログが2本、片手間に百姓をやり、そのブログが2本、論文で1本、その他アメブロなど3本。お読みいただければ幸いです。

 今日まで長年、ヒト細胞の総数は60兆個と言われ続けてきました。その根拠は、細胞の重量がおおよそ平均1ngであるとの極めて乱暴に推測した数値でもって、成人の標準体重60kgから算出したものです。ただし、体内の赤血球の総数については別途計算され、おおよそ20兆個と言われてきました。
 ところが、もう2年前になりますが、『人体生物学紀要』(Annals of Human Biology)という雑誌の2013年11・12月号に「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)という論文が載り、もう少し掘り下げたものとなりました。
 これは、イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニを筆頭著者とする研究チームによるものでして、ヒト細胞の総数を改めて計算し直したものです。彼らは、過去の論文を網羅的に調査し、その中から信頼に足るものを選び出し、各組織の体積や著者ら自身が臓器ごとに算定した細胞数の合計として、ヒト細胞の総数を37兆2千億個とはじき出し、そして、そのうちの26兆個が “赤血球” であると解析したのです。

 このトピックスは、「ヒト細胞の総数が60兆個から37兆個になり、赤血球が20兆個から26兆個になっただけで、そうは大差ないのではないか」といった感じで済まされています。
 しかし、赤血球数と他の細胞数の比率が3:7から逆転して7:3になってしまいました。小生、この数値の大逆転に正直言ってビックリしました。

 そして、よくよく考えてみますと、生命維持に赤血球がいかに重要な働きをしているものであるかが、うかがい知れます。
 ヒトは好気性生物であり、細胞内のミトコンドリアが酸素を要求します。その酸素供給のために、2個以上の赤血球でもって1個の細胞に対処していると言う事実、これを軽視してはなりますまい。


 ところで、赤血球について長年にわたって詳しく研究された方がいらっしゃいました。それは、生物学者・千島喜久男氏[明治32年10月10日 岐阜県上宝村(現:高山市)生まれ、1978年に79才で没]です。

 その千島氏が1963年(同年に岐阜大学農学部教授退官)に提唱された学説「千島学説」は非常に興味深いものがあります。

 千島学説は、生命・医学の革新的8大原理を基礎として成り立っています。その中で、小生が度肝を抜かれたのは次の原理です。

 第1原理 赤血球分化説
 赤血球は凡ての細胞の母体である

 第2原理 赤血球と各種細胞や組織との間の可逆的分化説
 栄養状態その他によって血球と各種細胞や組織とは逆戻りの関係がある

 第5原理 腸造血説
 赤血球は骨髄で造られるのではなく、腸の絨毛(じゅうもう)で造られる


 これを分かりやすく言うと、次のようになります。

 赤血球は「平均115日の寿命しかなく、どこでどのようにして消失するのか分かっていない」というのが定説とされてしまっている。これは、血液学者が「赤血球はいつまでも赤血球であり、体のどんな細胞も同様に変わらないものだ」と固定的に考えてしまっているからである。また、体細胞は分裂によってのみ増殖するという古来からの細胞分裂説は実証されておらず、これは正しくない。

 ちゃんと観察すれば、赤血球は白血球を経て体細胞に分化することがはっきりと分かる。そして、毛細血管の先端は開いており、赤血球はそこから様々な組織の隙間へ入ることができ、体細胞を作るのである。なお、ケガが治っていく現象もその部分に赤血球が集まって再生と修復をするからである。

 また、飢餓状態のとき、大量出血や病気のときには、体の各組織から体細胞が赤血球に逆戻りするという現象が観察される。つまり、赤血球と体細胞は可逆的に分化するのである。

 なお、赤血球は骨髄で造られるということが定説にされてしまっているが、これも誤りであり、赤血球は消化された食べ物が腸の絨毛で変化して造られるものである。

 

 千島学説のうち、最重要な「赤血球分化説」は、千島氏が既に戦前において九州帝国大学の嘱託時代に発見されたものですが、この新説は、生物学・医学の根底を覆すものであり、その学士論文の発表を認めてもらえないという苦汁を味わされました。戦後においても同様で、次々と新学説を発見するも、関係学会では無視され続け、興味を抱いた研究者が追試して実証しても、それは闇に葬り去られる始末です。

 集大成された千島学説が発表されてから既に半世紀が過ぎ、また千島氏が没してから30年近くになり、この偉大な学説が忘れ去られてしまわないか、危惧されるところです。

 でも、幸いにも「千島学説研究会 」が地道な活動を続けておられ、これに期待を寄せることとしましょう。

 

 さて、小生思うに、冒頭で紹介しました「ヒト細胞の総数が37兆個で、うち赤血球が26兆個、それ以外の体細胞が11兆個である」との研究報告、そして「赤血球は白血球を経て体細胞に分化する」という赤血球分化説、この2つに何やら深い密接な関係が在りそうです。

 小生は、生物学や医学の素人ですが、その道の専門家にあっては、直観力でもってこの2つの関連性に気づき、千島学説の“赤血球分化説は正しい”となりはないか、そう期待したいところです。

 もっとも、研究者が勇んでそんな発表をしようものなら、学界から総スカンを食い、握りつぶされ、悲哀にうちひしがれることになりましょうが。

 真理が真理として学界で認められるまでに随分と年月がかかるのは、歴史が物語っています。千島学説の発表は50年、いや100年早すぎたと言われていますが、既に50年が経ち、もう50年待たねばならないのでしょうかね。