相談の電話
で、
「避妊(去勢)はしなくてはいけないのでしょうか?」
という問い合わせをいただくことがあります。
「~しなくてはいけない」という言葉を選んだのはどうしてだろう。などと考えながら話を聞きます。
声の雰囲気からして、何かすっきりしない気持ちを抱えておられることがうかがえました。
手術をしなくてはいけないというような事を言われたのだろうか。
避妊・去勢をする人が多いから、しなくてはいけない気分になったのだろうか。
様々なケースを想定しながら話を聞きます。
話を総合すると、
通っている動物病院で、避妊・去勢術を再三勧められるのに困っているし、いまひとつ納得ができない。とのことでした。
なるほど。
そうだったんですね。
それで声色に若干の重さがあったのですね。
こういう話を耳にすると、僕は残念だなあと思います。
おそらく、飼い主さんには飼い主さんの考えがあって、疑問があって、不安があるんですよね。
逆に獣医師側にも知識に基づく考えがあって勧める理由がある。
伝える側と受け取る側の感覚の違いを、上手に埋められなかったのですね。飼い主さんにとっては、押し付けられて手術なんてしたくないという気持ちがあったのでしょう。
逆に獣医師側は、メリットがあるから手術して当然という考えがあったのかもしれません。
飼い主さんとの意思疎通がうまくいかなかったケースですね。
こういうことは僕自身にも十分起こり得ることです。自分としては説明したつもりでも伝わっていなかったり、タイミングや回数によっては過剰になることだってあるのでしょう。
話を聞きながら、我が身を振り返って冷や汗
をかく気分でした。
ここで避妊去勢手術の一般的なメリット・デメリットを簡単にまとめてみます。
メリット![]()
・ 望まない交配・妊娠を防ぐことができる。
・ オスは精巣、メスは卵巣・子宮の切除するため、その部分の将来的な病気は除外される。
・ 発情・生理がなくなる。
デメリット![]()
・ 全身麻酔のリスクは避けられない。
・ メスでは、術後に尿漏れを起こすケースがまれにある。
・ 術後は太りやすい傾向がある。
相談者の方には、上記に加えて以下の僕の個人的な見解を伝えて検討してもらうことにしました。
1.確かに今は避妊・去勢術を受ける人の割合が半分以上であること。(僕のクリニックでは7~8割でしょうか。) 僕の方から手術を勧めるのは、一人で外歩きをすることがある子。野良ネコ・イヌを増やさない、無用なケンカに巻き込まれないためです。
2.受けなかったとしても必ずしも将来病気になるわけではなく、精巣、卵巣・子宮を持ち続けたまま、とても健康に長生きしているイヌもネコも多くいること。ただし病気の諸症状が出た場合は早めに病院にかかることが大切。
3.手術を受けるにしても、急ぎすぎる必要はないこと。精巣・卵巣からのホルモンは動物本来の性の「らしさ」に作用するため、さかりを経験した子は精神面でしっとりとした落ち着いた印象があること。
4.決めるのは飼い主さん自身であること。受けない場合は「うちはやらなくて大丈夫です。」と笑顔でスルー
でいいんです!
後日、
あらためてご連絡をいただきました。
「このまま手術は受けないことにしました。」とのこと。
よかったですね。スッキリできて何よりです。
以前より軽くなった声のトーンを聞きながら、長く幸せに動物と暮らしてほしいなぁと思いました。
避妊・去勢術。
じっくり考えて決められるといいですね。
今回の出来事は、日頃の自分を否が応でも振り返るいい機会となりました。
初心忘るべからず
僕の説明を聞いた人にはどう伝わるのか。
またどう伝えるべきか。
意識し続けねばと再確認でした。