この作品は『ポケモンレジェンズアルセウス』を元に書いています。わたし個人の妄想であり、原作の内容とは無関係です。
「ショウさん、結婚しましょう!」
突然の告白に目をぱちくりさせる。
「結婚って…… ウォロさん、いったい今度は何をたくらんでいるんですか?」
「失礼ですね。まあ、アナタと一緒に暮らしてやると言っているのです」
「なんで上から目線なの」
「独りで生活するのは大変でしょう。そこでワタクシの面倒をみさせてあげますよ」
「負担、増えてますよね?」
「ワタクシのことがキライですか?」
彼は困ったように眉を下げる。その顔、わたしが弱いと知っているくせに。
ふぅ、と息をつく。
「好きですよ。でも、ウォロさんはわたしのことが憎くてキライですよね」
「ええ、そうですね」
そこは否定してほしかった。
「キライな人と暮らすなんて、ウォロさんは耐えられるんですか」
「だからこそ、ですよ」
嬉しそうに指をぶんぶん振る。会った当初から見せていた彼のくせ。
「キライなアナタをこき使えるのです。ふふ、いまから楽しみですねえ!」
「まだ承諾したわけじゃ……」
「では、他の女と結婚しろと?」
他の女。その言葉に頭が真っ白になった。頭が、胸が、ざわざわする。
きもちわるい。
「ダメです…… 他の人とはダメ!!」
気づけば絶叫していた。手が震える。ウォロさんの服をきつく握りしめた。
「わ、わたしにして」
声が震える。彼にすがりつく。
「お、おねがいします。どれだけこきつかってもいいです。いうこと、ききます」
呼吸が浅く早くなっていく。
それでも、これだけは言わなきゃ。
「他の人と結婚するのは止めてください! わたしがウォロさんと暮らしますから!」
「良い子ですね」
泣きじゃくるわたしを、ウォロさんは優しく慰めてくれた。大きな手だな。
「じゃあ、結婚しますね?」
「はい」
村の人たちに報告すると、みんな心配してくれた。それはそうだよね。
わたしはずっと、だまされていたのだから。
彼がわたしを愛して結婚したのではなく、ただ便利な召使いが欲しかっただけ。
わかっている。わかっていても、誰かにウォロさんを取られたくなかった。
何かあったらすぐ相談する。
そう約束して結婚を認めてもらった。
「考えることが山積みですね。まずは金銭面ですね。つまり仕事のことです」
「お金か…… 今のままで充分では」
収入面で言うなら余っているほどだ。足りなくなったら、物を拾って売ればいい。
ウォロさんが、わたしの体を眺める。
「子どもはどうします?」
「欲しいけど、今のわたしでは無理です。もっと大人になってからですね」
それに懸念もある。
わたしは子どもを産めるのだろうか。
体質うんぬんの話ではなく、いわゆるタイムパラドックスの話だ。
わたしは未来から落ちてきた。
そんなわたしが過去で出産すれば、大きく歴史が変わってしまう。
果たして許されているのだろうか。
そもそも、わたしは大人になれるのか。
「だから、ごめんなさい。どう使ってくれても良いけど、子どもは難しいです」
「謝る必要はありませんよ」
「子どもが好きなんですか?」
「まあ、それなりには。好奇心が旺盛な子どもは見ているだけで面白いです」
ふっと優しく笑う。
そういう穏やかな顔もできるんだ。
「ショウさんは大人を信頼しているようですが、それはなぜです?」
「なぜって……」
あまりにも当たり前すぎて言葉に詰まる。
「大人に助けてもらったからです。たくさんの大人に支えられてきたからです」
言えば、彼は目を丸くした。
「それは…… 知りません、ね」
「ウォロさんだって全ての大人を憎んでいるわけじゃありませんよね?」
「まあ、尊敬できる人もいます」
「それなら、わかるでしょ?」
「ですが、ごく一部です。人間は傷つけあうのだから消した方が」
「良くありませんよ!」
わたしは叫んだ。
「ウォロさん、発想が極端すぎます。イヤな人とだけ離れたら済む話でしょ!?」
「ショウさん、アナタは幼稚だ」
「そっくりそのまま返します。好きな人とだけ一緒に居ればいい。単純な話です」
「へえ、胸が小さい人はオツムの容量も小さいのですね。かわいそうに」
「なんで、いきなりディスるんですか」
「でぃ、する?」
「あ、そっか。なんで、いきなり悪口を言ってきたんですか? そういう意味です」
「事実を述べただけです」
わたしは、やれやれと肩をすくめた。
これから、この人と暮らすのか。大変で、にぎやかで、面白い日々になりそうだ。
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