この作品は『レジェンズアルセウス』を元に書いています。わたし個人の妄想であり、原作の内容とは無関係です。


 鼻歌まじりにチョコを溶かす。


 愛情がこもるように。丁寧に混ぜる。

「うん、これで良いかな。あとは冷蔵庫で冷やして固めたら完成!」

 できあがったハートのチョコ。


 それをウォロさんに渡した。


 彼は不思議そうに首を傾げて、それでもゆっくりと口に含んでくれた。

「ふむ、甘いですね」

「ちょ、チョコレートなので」

「わざわざハートの形にした理由は? ハートは恋愛的な意味だと記憶していますが」

「その認識であっています」

「ワタクシのことが好きなのですか」

 わたしはゆっくり頷いた。顔が熱くなる。真冬なのにクーラーをつけたい。

「ワタクシは憎いです」

「知ってます。でも、もうすぐバレンタインだから。渡すぐらい許してください」

「ばれんたいん?」

「好きな人にチョコを渡す日です」

「ほぉ、チョコが売れそうな日ですね。ギンナンさんに教えたら喜びそうです」

「あはは、鋭いですね」

「どんなチョコがあるのです?」

「わたしが元いた世界ですか? まずはシンプルなミルクチョコ。大人向けの苦いブラックチョコ。少し高級感のあるホワイトチョコ」

 思い出しながら答えるわたしに頷きながら、ウォロさんはメモを取っている。

「この3つは基本ですね。特にミルクチョコは癖もなく食べやすいです」

「これがミルクチョコですか」

「はい、そうです。ブラックチョコは苦味が強いです。なので体型を気にしている女性に人気があります。反対に子どもには不評ですね」

「ほおほお、なるほど」

「ホワイトチョコは反対に甘みが強いです。値段も少し高めですね」

「貴族向けですか」

「そこまで高級じゃありませんよ。子どものおこづかいでも買える額です」

「果物などを入れても美味しそうですね」

「さすがですね。そういう商品もあります。主にドライフルーツを入れます」

「他には何を入れるのです?」

「ナッツだったり、キャラメルだったり。いろんなフレーバーが楽しめるんですよ」

「贅沢な暮らしですねえ」

「チョコは遭難したときの非常食としても使われていたそうです」

「なるほど、便利ですね」

 なんでも手軽に食べられるうえ、長期保存もできる。おまけに甘くて美味しい。疲れたときに元気を出すにはうってつけだ。


 遭難なんてゴメンだけど。

「それと、媚薬にも」

「ああ、それを狙って渡したのですか。ショウさんも好きものだったのですね」

「違います! いや、違いませんけど」

 誤魔化すために彼にキスをする。

「あなたから口づけしてくれるなんて。これは山が割れるかも知れませんね」

「だとしたら責任重大ですよ……」

 そのまま服を脱いで、彼を誘う。

「チョコレートはいいので? まあ、冷蔵庫に入れておけば大丈夫ですか」

 体を重ね合う。

「はくしゅん!」

「あら、寒いですか。平気ですよ。ほら、子どもは風の子と言いますし」

「子どもって……」

 確かに子どもだけど。こうやって体を重ねるぐらいには大人なのに。

「いつになったら大人として見てくれますか」

「ワタクシと同じ背になったら」

 ウォロさんはザッと見ても190はある。対してわたしは、うん、考えるのは止めた。

「何百年後になると思っているんですか」

「アナタは10年に1ミリだけ背が伸びる呪いにでも掛かっているのですか」

「黙ってください」

 冷たい風が部屋に入ってくる。


 昔の家だから、あちこち隙間風ばかり。夏は涼しくて快適なんだけどね。

「さ、寒いので早く」

「ワタクシも冷えてきました。さっさと終わらせましょうか」

 事が終わり、湯船につかる。

「はあ、あったかい……」

「ひとつになった後のお風呂ほど、心安らぐものはありませんよね」

「同感です」

 外も中もとろけてしまいそうだ。

「湯煎されて溶かされていくチョコレートって、こんな気持ちなんだ」

「それは思い込みでは?」

「ウォロさん、あげたチョコ全部食べてくださいね。他の人にあげちゃダメですよ」

「あげる必要性を感じませんが」

 その言葉に安堵する。


 約束どおり、ウォロさんはチョコを完食してくれた。顔がにやけてしまう。

「そんなに嬉しいですか」

「もちろんですよ!」

「わかりませんね。ただ貰ったものをムダにしたくなかっただけです」

「それが嬉しいんですよ」

 食べたフリをして捨てるという選択肢もあったのに、そうしなかった。


 ちゃんと食べてくれた。


 わたしの気持ちと努力を受け取ってくれた。それだけで心がポカポカするんですよ。

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