シイラがそろそろ活気づきはじめる梅雨ころから盛期を経てお盆過ぎまで、四国は荒天の日ばかりがやたら目立った。
当然、海は時化て、沖のパヤオまで遊漁船で出かけていける日は、シーズン中何日もなく、しかもベストコンディションの釣行となると、ほんの数日であった。
われわれも悪天候をもたらす夏の熱帯低気圧に邪魔されて、シイラらとの熱い戦いを三度も見送らなくてはならなかった。
しかも、問い合わせるたび、今シーズンは全般に不漁だと馴染みの船頭からはさびしい声ばかりがきかれた。
念願かなって今シーズン初釣行
それでもついに待ち焦がれた出撃の日がやって来た。いよいよ土佐湾沖のパヤオまでシイラを釣りに行ける日がやって来たのだ。
8月22日。
すでにシーズンも過ぎてしまった感は否めないが、やっと釣りにいけるので、みんな表情が明るい。タックルを船に積み込むにも、フットワークが軽快であった。
午前4時過ぎ、待ちに待った大海原へと出撃である。
台湾沖の熱帯低気圧が原因と思われるうねりが船首を叩くが、釣りに支障をきたすほどではない。
釣り場に到着するまでに星は輝きを弱め、東の空が白みはじめた。
決戦の時はもう間近である。
やがて、第一番目のパヤオが行く手にぼんやり見えはじめると、得も知れず気持ちが高ぶって仕方なかった。
「よし、やってやるぞ!」
きっと仲間の誰もがそう気持ちを強くしたにちがいない。
船上が急に慌ただしくなってきた。
よく釣れるのはいいのだが
結論から先に述べると、シイラがルアーに果敢にバイトしてきたのは午前9時までの朝の時合のみであった。
ルアーはペンシル、ポッパー、ミノーの比較的大きいサイズをティーザーとして用いた。むろん、フックをはずしてキャストするが、ミノータイプでは高速で泳がせてもバランスを損ないにくいK-TENのブルーオーシャンシリーズを多用した。そのティーザー役のルアーがフライの射程距離までシイラをおびき寄せてくれたらしめらもの。素早くフライをキャストする。シイラは活性次第で比較的容易にフライを捕えるので、海のフライフィッシングのターゲットとしては申しぶんない。が、しかし、すでに盛期を過ぎてしまっているため数は出るものの大型が釣れにくい。通称ペンペンと呼ばれる小さめのサイズばかりが頻繁にフライを捕えるはめとなった。
シイラの他に小型のカンパチ、カツオの幼魚、レインボーランナーなどがフライをたびたび追ってはくるがヒットにはいたらない。
フライをシュリンプタイプに変更してみるが、ウスバハギ、ナンヨウモンガラなどの襲撃にあって二の句も継げなかった。
「もっと光を!オー神様もっとビッグワンを!」
そう唱え海の神に祈らずにはいられなかったが、誰もが同じ心境だったろう。
正直、この先が心配でならなかった。
子マグロが回遊、そしてビッグワン!
陽もよほど高くなって、小さなマグロが水面近くを弾丸のように泳ぎまわるのを何度となく目撃した。
マグロはちょうどカラスくらいの大きさに見え、胸鰭をひろげて泳ぐさまは、型といい色といい、まさに海中のカラスである。
みんな大型のものから小型のストリーマーに替えるのに泡を食う。
最初に海のカラスにフライを捕えさせたのは垣井くんだった。7番ロッドが綺麗な弧を描いて撓る。ついで漆原くん、西村くんの10番ロッドも引き絞られる。
大物一発を期待して、12番ロッドで大型のストリーマーを投げつづける私と山田さんだけが惨敗である。
鉄人に超大型がヒット、しかし・・・
今回、釣行を共にした漆原くんの友人の田中くんは、哲人ルアーマンの異名を持つ海釣りの達人だが、マグロでフィーバー中のフライマンを尻目に、大型のミノーで水面下を攻めに攻めて、2尾の大物をフッキングさせることに成功した。いずれもバカでかいヤツで、ルアーにかじりつくなり海の底へとまっしぐらに疾走した。みるみるリールのスプールからラインが消し飛んでいく。
しかし、無理に止めようとして2尾とも切られてしまった。
鉄人は空を仰いだ。
空には熱に膨らんだ太陽が輝いている。
その太陽を背に鉄人が普段にも増して小さくみえるのは気落ちのせいだろうか。
それでも彼はその後何事もなかったかのように小ぶりなシイラを連発させていたことからメンタル面の強さは相当なもののように思われた。
お昼前、私のあやつるフライに大型のシイラがヒット。幸運にもランディングすることができた。
じっさい、このようにメーター級が出るには出た。フライでも出たし、ルアーでも釣れた。
しかし、その多くはペンペンシイラばかり。
一向に釣況がぱっとしない。
なので、メンバー6人、納竿するには少し早いが、午後1時過ぎに帰港の途についた。
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