愛媛県西条市を流れる加茂川は二月一日が解禁日である。そこで、今年もウエットフライの釣りを楽しもうと、馬の合う仲間を誘って出かけてみた。釣り歩いたのはひらけた流れの本流域下流。そのなかでも加茂川漁協そばのトリム公園河川敷横のプールから、その数百メートル上流に位置する魚道堰前後までのあいだは、アマゴの放流数がとくに多いことから餌釣り師にも人気が高い。
とくにこれからウエットフライフィッシングをやってみようという人や、やりはじめて間もない初心者の人にとっても、このエリアはよい練習場所になることまちがいなしなので興味のある人は出かけてみるとよいだろう。
流れはゆったりとしており、ほどほどに水深のある瀬がつづく。ひらけた流れなので周りを気にすることなくキャストが出来て釣りやすいのがなによりも嬉しい。
解禁後もう何度かここを訪れている私だが、河川の漁協のあるトリム公園前辺りが魚影が濃くて、餌釣り師の姿をもっとも多く見かける。竿を曲げてやり取りしている最中の餌釣り師に行き合うということも珍しくなかった。
さて、ウエットフライフィッシングに話を戻すが、ひらけたフラットな流れはダウンクロスで釣りくだる方が効率よく探れてよい。岩を配した速くて複雑な流れの場所ではアップストリームに投げてナチュラルドリフトさせたり、サイドからナチュラルとドラグを併用して狙ったり、上流から下流に向けてフライを躍らせたりと、状況に応じた誘い方で狙っていけばおのずと結果はついて来るはずだ。また、ちょっとした自分流の工夫を加えることでいっそう安定した釣果をわがものとしている仲間も少なくないので頭を使って考えることも忘れてはならない。頭でっかちになってはダメ。考えもなく猪突猛進というのもダメである。何事もうまくやるにはバランスが重要だ。釣り師も同じくこの辺りをよく心得て臨まなくては明日の進歩はない。よく肝に銘じておくべきであろう。
それと、ウエットフライは水面から底まで、あらゆる層を探ることができるので、ドライフライが通用しないような条件下でもその威力をいかんなく発揮できるという強みがある。おぼえておいて損はないので、まだ手を染めていない人はこの機会に始めてみたらどうだろう。
川の流れがこれまでとまるでちがって見えるかもしれない。
ウエットフライのタックル
やろうと思えばどんなフライタックルでもやれないことはない。けれども理にかなった釣りを楽しもうと思うなら、ロッドはドライフライ用よりも長めのウエットフライアクションと呼ばれるものが適している。その場に適したものならグラファイト、グラス、バンブーなどロッドブランクの素材については個人の好みでよい。
川の規模や狙う魚の大きさでロッドの長さや番手は変わるが、ここでは8ft半~9ft程度の5番、ないしは6番というところが妥当だろうか。
ラインは状況次第でシンキング、シンクティップ等のラインも使用するが、最初はラインの流れ方が一目瞭然なフローティングラインで練習するとよい。
ラインのテーパーについてはウエイトフォワードよりもダブルテーパーの方がメンディングのしやすさからも扱いやすい。
リーダーは9ft3Xのウエットフライ用(テーパーリーダーと呼ばれるもの)。そのままラインに直結してもよいが、川の規模等状況を睨んでバット部を短めにカットして使うこともよくおこなう。個人的には7~8フィートに詰めて使用することが少なくない。ドロッパーと呼ばれる枝鈎は付けても付けなくてもよいが付けるばあいも慣れないうちは一本だけにする。そもそも私は複数のドロッパーを結ぶことはしないので、いつのときにもリードフライとドロッパーの2本鈎である。
枝鈎をドロッパーと呼ぶことは既に触れたが、リーダーの先に結ぶフライをリードフライという。リードフライとドロッパーは60センチほど間隔をあけて結ぶがいつでも長さが一定であるというわけではない。
ドロッパーの枝素には1Xか2Xのティペットを用い、枝の長さは10センチ以内とする。ティペットは専用のものでなくても、ナイロンハリスでじゅうぶん代用できる。私はユニチカのスタークU2を多用している。ナイロンハリスを使った方が価格的にも割安であるばあいが多い。
フライは8番から12番くらいのウエットフライを数種類持って出かければ最初のうちはじゅうぶん対応可能である。
今回の加茂川本流釣行では、リードフライにシルバーサルタン14番、グリズリーキング12番、メイフライ12番、ティール&シルバー12番、コックロビン12番のいずれかを結び、ドロッパーには8番のロイヤルコーチマンのみを結んで釣りをしたが、この他にもよく釣れるフライは少なくないので、いろいろ試して相性の良いフライを少しずつ増やしていくようにするといいだろう。
ウエットフライのパターンブックを買って研究するのも悪くない。
釣れる魚種は
加茂川にかぎっていうと、源流にはイワナも棲むが本流中下流域で釣れるのはアマゴとニジマスである。アマゴは天然ものもいないわけではないが、あきらかに成魚放流されたとわかるものが8割程度を占める。ニジマスも放流魚とわかるものが多いが、きれいな魚体の良型が稀にフライを捕えて素晴らしい引き味を堪能させてくれることもある。
むろん、これも長く清流に居つくあいだに美しく変貌した放流魚に過ぎない。なぜなら外来魚のニジマスは日本の清流に放つとすくすく育つが、四国に産卵を可能とするフィールドはほぼゼロに等しいからである。
今期は解禁間近の一月下旬に相当数のアマゴの成魚が舟形橋近くの魚道堰下流のプールに放流されたが、二月二十日現在、よく釣れるのは圧倒的にこの成魚放流されたアマゴであると言ってよい。
成魚放流されたものは活性が高く、条件さえよければ瀬の表層を流れるウエットフライに果敢にとびついてくる。サイズは15~25センチというところか。
解禁前に放流された個体ではない綺麗なアマゴは、それより大きいか、うんと小さく、大きいものは絶対数が少ない。
こういう野生化したアマゴは釣り人の多いエリアではとくに狡猾でなかなか釣るのが難しい。
そうでなくても数からして多い成魚放流のアマゴを避けて、綺麗なアマゴだけを釣るのは不可能に近いので、もしそういう上出来のアマゴを手にできたなら素直に喜んでいい。
腕前に自信のある人は、もう少し上流の中野大橋から黒瀬ダム辺りまでのひらけた流れを釣り歩くとよい。綺麗なアマゴに混じって野生化した良型のニジマスが口を使ってくれるかもしれない。
むろん、もっと上流の渓流でもウエットフライを用いて釣るなら綺麗なアマゴがシーズン初期から高確率で狙える。このばあい、禁漁のエリアを複数設けてあるので、遊漁券購入時に、それも含め釣況やお勧めのポイントを漁協の人によく聞いてから釣り場に向かうようにしたい。
ミッジ、ニンフの釣りも
ウエットフライのほかにニンフの釣りや、あるいは水面に微小なフライを浮かべて鱒を狙うミッジングの釣りも満喫できる。ミッジングのばあいは魚道堰のすぐ上の大きなプールがよいようだ。地元のフライフィッシャーがここで釣っているのをよく見かける。風がなく暖かくてユスリカのハッチが盛んな状況下なら微細なミッジフライを用いた釣りがきっと堪能できる。風波の影響が出るミッジングに不利な条件下では、ルースニングで釣果を稼ぐという手もある。
ミッジング、ニンフフライを用いたルースニングともに、タックルは3番か4番でじゅうぶん対応できる。
今後の見通しは
三月中旬以降は、ドライフライの釣りが楽しめるようになる。標高の高くないひらけた流れなので盛期を迎えるのも一足早い。
四月中旬から五月のイブニングライズの釣りは見逃せない。大型のメイフライ、セッジのハッチが盛んな日の夕暮れには、大型のアマゴ、良型のニジマスが水面を割って精悍な顔をのぞかせることもある。そうなればしめたもの、ひらけた流れに思い存分大きめのウエットフライを躍らせて鱒を狙う季節の到来である。
メイフライにライズしていればカゲロウのパターンを、セッジが群飛し、あるいは水面をスケートでも楽しむように這いまわっていればトビケラのパターンを、それぞれリーダーの先に結ぶようにすれば好釣果を得ることもさほど難しくない。
去年は大雨による洪水で、水系全域に大きな被害が出たと聞いている。とくに山岳の渓流部はひどかったらしい。しかし、野生化したトラウトは人間が思うほど脆弱ではないから、きっと生き延びて今年もまた私たちの前に元気な姿を見せてくれるにちがいない。
また、新緑の渓流では綺麗なアマゴが、夏の源流では愛嬌たっぷりのイワナが、きっと私たちのあやつるフライにとびついて来てくれるはず。
今から楽しみで仕方がない。
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