京都イノダコーヒー三条店――よそもん警報が鳴らない午後
京都イノダコーヒー三条店にて。
京都のご婦人方に混ざり、静かにコーヒーを飲みながら、ふと不安になります。
――大阪から紛れ込んでいる「よそもん警報」、鳴らないだろうか。
この妄想の元ネタは、魔夜峰央さんの漫画『翔んで埼玉』です。
『パタリロ!』で一世を風靡された作者が描く、埼玉への愛と憎しみが入り混じった世界。その中に、埼玉県民が東京都内でエンタメを楽しんでいると、突如けたたましい警報が鳴り、ランプが回り、無断越境した埼玉県民が識別・連行されていく名(迷)シーンがあります。
京都で、京都市民に紛れて喫茶店に座っていると、あの場面がふと脳裏をよぎるのです。
「大阪人が京都に潜り込んでいることが、バレたりしないだろうか」と。
京都の会話は、堂々としている
そんなこちらの内心などお構いなしに、お隣の席のマダムは実に堂々としています。
注文を取りに来たウェイターさんとのやりとりが、また自然です。
「今月はローストビーフのサンドイッチがおすすめでございます。」
「今、コーヒーだけでいいねん。」
「かしこまりました。お砂糖とミルクはお入れしてもよろしいですか?」
「……うーん。ミルクだけ入れといて。」
この、ためらいのない距離感。
丁寧でもあり、馴れ馴れしくもあり、しかし決して横柄ではない。
京都の常連の空気が、そこにはありました。
よそもんの作法
一方、私はというと、ウェイターさんには敬語と笑顔。
「ありがとうございます」「お願いいたします」を、少しだけ丁寧に添えます。
すると、ウェイターさんも自然に笑ってくださいました。
警報は鳴らず、ランプも回りません。
どうやら私は、無事に見逃されたようです。
京都の喫茶店でコーヒーを飲むという行為は、
単なる飲食ではなく、その街の空気にどれだけ身を委ねられるかという、小さな試験のようでもあります。
堂々とした京都のマダムと、少し身構えた大阪のよそもの。
同じテーブル、同じコーヒーでも、立っている場所は少し違う。
イノダコーヒー三条店は、
そんな微妙な距離感すら、苦笑とともに受け入れてくれる、
懐の深い喫茶店でした ☕



