コンプライアンスと業績はどちらが大切なのか ― 弁護士の視点から | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

コンプライアンスと業績はどちらが大切なのか ― 弁護士の視点から


企業の経営者や管理職の方とお話ししていると、

「結局、コンプライアンスと業績はどちらが大切なのか」

という質問を受けることがあります。


結論から言えば、

コンプライアンスは “業績の前提条件” であって、どちらが上・どちらが下と比較できるものではありません。



■ 1 短期の業績 vs. 長期の信頼



コンプライアンスを軽視すれば、短期的には業績が良く見えることがあります。

コストを削減し、作業を簡略化し、スピード重視で突き進めば、数字上は一時的に伸びるかもしれません。


しかしその裏側には、多くの場合、


  • 法令違反
  • 労務リスク
  • 顧客とのトラブル
  • 情報管理の不備
    などの“将来の不良債権”が積み上がっています。



問題が顕在化した瞬間、企業の信用は一気に失われ、

数十年かけて築いたブランドが、一日で消えることすらあります。



■ 2 「コンプライアンスはコスト」ではなく「投資」である



日本では、コンプライアンスを“業績の敵”のように扱う傾向があります。

たしかに、教育・内部統制・チェック体制にはコストがかかります。

しかし、それは単なる経費ではなく、

業績を長期的に安定させるための投資です。


法律違反による損害賠償、行政処分、取引停止、炎上対応といった“後片づけ”のコストは、

予防のためのコストとは比べものになりません。


「予防法務に投資できる企業」と「問題が起きてから弁護士を呼ぶ企業」では、

長期的な業績に大きな差が生まれます。



■ 3 社員が動くのは「ルール」ではなく「空気」



コンプライアンスは、就業規則やマニュアルだけで守られるものではありません。

むしろ重要なのは、

“会社として、何を大切にしているか”という空気です。


たとえば、

「多少無理をしてでもノルマを達成せよ」という文化の職場では、

ルールよりも「数字」が優先され、コンプライアンス違反が起こりやすくなります。


逆に、

「迷ったら安全側に倒す」「法令遵守を最優先する」と経営陣が明確に示す会社では、

社員は安心して行動でき、結果としてトラブルも少なくなります。


実際、

法令遵守の文化を持つ企業ほど、離職率が低く、顧客満足も高い

というデータは多く存在します。



■ 4 業績とコンプライアンスは対立しない



「業績を伸ばすか」「コンプライアンスを守るか」という二択の議論は、

本来、誤った前提です。


正しい順番は、


  1. コンプライアンス(信頼)を土台に置く
  2. その上で 戦略を立て、業績を伸ばす



この流れです。


信頼という土台がなければ、どんな壮大な経営戦略も砂上の楼閣に過ぎません。



■ 5 まとめ ― 企業の未来を決めるのは「信頼」



コンプライアンスは単なる規制ではなく、

企業が社会から「この会社なら任せられる」と評価されるための基盤です。


業績は、信頼の上にしか積み上がらない。

そして信頼は、コンプライアンスによって守られる。


このシンプルな原則を押さえられる企業ほど、

長期的に成長し、社会から必要とされ続ける存在になります。