交渉の現場で感じたこと——「どちらが正しいか」ではなく、「どうすればうまくいくか」 | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

交渉の現場で感じたこと——「どちらが正しいか」ではなく、「どうすればうまくいくか」


交渉の詳細を書くことはできないのですが、今日はひとつの山を越えました。

内容証明郵便を送っても沈黙が続いていた相手方について、ようやく連絡先を突き止め、直接お話しするところまで漕ぎ着けたのです。


電話口の相手は、とても怒っていました。

こちらの依頼者のこれまでの対応に、どうにも納得がいかない様子。

その語り口を聞いていると、まるで“ネガとポジ”の関係のように、同じ出来事でも、相手から見ればまったく違う風景に見えるのだということがよくわかります。

「確かに、相手から見ればそう見えるだろう…」

そう思わざるを得ませんでした。


ひとまず先方の意向を整理し、すぐさま依頼者とZoom会議を開いて共有します。


「……」

画面越しに、何か言いたげな依頼者の表情が伝わってきます。

その表情から読み取れる気持ちをそっと言葉にしてみると、依頼者は大きく何度もうなずかれました。

「どうして、考えていることがわかるのですか?」

そう尋ねられましたが、理由はとてもシンプルです。


相手が言っていることを、依頼者の立場から見直せば、自然と見えてくるからです。


私はこれまで、双方の立場の代理人を務める経験を積んできました。

その中で学んだのは——

どちらか一方が“正しい”と断じるより、どうすれば“これからうまく行くか”を軸に考えた方が、結果として全員にとって良い方向に進む

ということです。


そこで依頼者に、こう提案しました。


「正しさの決着よりも、これからうまく進める道を軸に方針を選びませんか。

もちろんこちらにとって望ましい結果を優先しつつ、相手にも飲める範囲で。」


依頼者も静かにうなずいてくださり、その瞬間から、ようやく“解決策を練る”モードに移ることができました。


交渉は、感情と論理が入り混じる世界です。

それでも、双方の立場を往復して眺めてみると、急に景色が晴れることがあります。


今日の一歩は、そんな瞬間でした。