TikTokに不同意の動画を投稿された場合の削除請求の実務 —シンガポール法人への申立てが必要 | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

TikTokに不同意の動画を投稿された場合の削除請求の実務 —シンガポール法人への申立てが必要


SNSが生活インフラとなった現在、TikTok や YouTube に「不同意の動画」「意に沿わない映像」を投稿される被害が増えています。

名誉権やプライバシー権の侵害は明白でも、実際に動画を削除させるための手続が分かりづらいという相談が後を絶ちません。

今回は、TikTokを中心に、海外プラットフォームに対して実際に削除請求を行う際の具体的なステップを共有します(日本人同士のトラブルを前提とします)。

1 TikTok日本運営会社は削除窓口にならない現実

誤解されがちですが、

TikTok の日本での運営会社である バイトダンス株式会社(東京都内) は、法的な削除要請の窓口になっていません。

同社は「日本ローカルのマーケティング・運営会社」という建前で、

名誉毀損・プライバシー侵害のような法的リクエストは受け付けないという立場を明確にしています。

そのため、国内法人に内容証明を送っても、

「法的削除リクエストはシンガポール法人へ」と案内され、実質的な対応は得られません。

2 実際に窓口となるのは TikTok シンガポール法人

TikTok の動画削除リクエストは、TikTok Pte. Ltd.(シンガポール法人) が一元的に処理しています。

同社はオンラインで受け付けるための法的リクエストフォームを公開しており、

日本人同士のトラブルであっても、ここに英語で申請する必要があります。

3 申請フォームに記載すべき内容(実務)

実務的には、内容証明郵便の記載要件に近い情報を盛り込みます。

以下のような項目を漏れなく記載することがポイントです。

① 侵害事実

  • どの動画の、どの部分が、どのように名誉・プライバシーを侵害しているか
  • 具体的描写、映り込み、音声など

② 侵害の法的根拠

  • 名誉権侵害(民法709条)
  • 肖像権・プライバシー権侵害
  • 著作権侵害があればその旨も記載

③ 損害と因果関係

  • SNS 拡散による精神的苦痛
  • 社会生活への影響
  • 業務への支障

④ 削除を求める理由(法的主張)

  • 直ちに削除する必要性
  • 二次被害の拡大可能性

⑤ URL資料の添付

  • 問題動画のURL(必須)
  • 投稿者のプロフィール画面のスクリーンショット
  • 当該動画の映り込み・発言部分のスクショ
  • 必要に応じて本人確認資料

フォーム内に該当欄があるため、各項目を英語で記入するか、

日本語記載の横に英訳を併記する形がもっとも確実です。

4 英訳が重要な理由

海外法人が審査を行うため、

「日本語だけでの申立て」では処理が極端に遅くなるケースがあります。

そのため、

  • 侵害事実、
  • 法的根拠、
  • 削除を求める理由
    などの中心部分は、英訳を付けて提出するのが実務上必須です。

翻訳精度が低い場合、審査が止まったり、追加説明を求められることがあります。

5 提出後の流れ

  • 受付通知メールが届く
  • 審査(1〜3週間程度)
  • 削除・非公開・却下のいずれかの判断
  • 追加資料を求められることもある

プラットフォーム側の判断は基本的に独自基準ですが、

法的根拠が明確な場合は比較的スムーズに削除される印象です。

まとめ


不同意の動画を投稿される被害は深刻で、放置すれば二次拡散も避けられません。

しかし、国内の TikTok 日本法人に削除を求めても窓口にはならず、

実際の対応はシンガポール法人への英語申請が必要という点が大きな落とし穴です。


侵害事実・法的根拠・資料添付を整理した上で、

正確に申立てを行うことが重要となります。