セクハラ・パワハラにご用心〜昔はおおらかで良かった?それとも…〜 | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

セクハラ・パワハラにご用心〜昔はおおらかで良かった?それとも…〜


船場 少彦名神社の神農祭の近づく道修町近辺


25年ほど前、私が大手法律事務所に勤務していた頃のことです。

夏のある日、事務所の空気は相変わらず慌ただしく、各弁護士がそれぞれの案件に追われていました。


そんな中、女性の先輩弁護士(以下、姉弁)がジャケットを脱ぎ、ノースリーブのトップス姿で急ぎの起案に取り組んでいました。

すると、恐れというものを知らないタイプの男性の後輩弁護士(弟弁)が、ふらりと近づいてきて——


自分の右手で左上腕部を、左手で右上腕部を、ぱんぱんと叩きながら

「ばんばんばーん。」


姉弁が“二の腕へのツッコミ”だと察して即座に返した一言が、また秀逸でした。

「二の腕についてきた肉のことを言ってるなら、容赦はしないよ?」


事務所内は静かでしたが、空気がぴりっとしつつ、どこか笑いも起きるような瞬間です。





■ 男性の先輩弁護士(兄弁)の場合



また別の日。

顧問先との懇親会が終わり、二次会は「僕たちだけで!」と兄弁が言い出しました。

そして兄弁はスーツのラペルから弁護士バッジを外し、顧問先の若手社員は上場企業の社員バッジを外しながら、夜の繁華街へ——。


翌朝、兄弁は妙に爽やかで、誰も聞いていないのに

「いやー昨日は楽しかった。踊り子さんはヒモみたいなものしか巻きつけていなかった!」


と報告してくるわけです。


私は冷たい微笑みで返し、即座に姉弁に

「◯◯先生、今朝こんなこと言ってきました」

と共有していました。





■ 当時は「不快ではなかった」。でも今なら完全にアウト



こうしたエピソードは、私にとって決して嫌な思い出ではありません。

むしろ、あの頃の事務所には独特のおおらかさや“人間くささ”があり、私はその空気が嫌いではありませんでした。


しかし——

今この行為をしたら、完全にハラスメントです。


セクハラ・パワハラに対する意識が高まり、ハラスメント防止法制も整備された現代社会では、職場のコミュニケーションに求められる基準は大きく変わりました。


当時は笑い話で済んでいたことが、今は組織の信用やキャリアを失うリスクになり得る。


それほどまでに、社会は変わったのです。





■ “おおらかな時代”を懐かしむ気持ちと、今のルールを受け入れる気持ち



人間関係がもっと密で、許容も広く、互いの距離が近かったあの頃。

その空気が良かった、と今でも思います。


けれど同時に、あの頃の空気で“嫌な思いをしていたはずの誰か”もいたかもしれません。

気づかずに置き去りにしていた声があったことも、現代のハラスメント意識の高まりが教えてくれました。


「昔は良かった」だけでは語れない。

「今は厳しい」だけでも語れない。


その両方の時代を知っているからこそ、私は今のルールを自然に受け入れつつ、

あのおおらかな空気感もどこかに残しておきたい——そんなふうに感じています。