「呼吸と声の力──Creepy Nuts大阪公演から学ぶ、日本の息づかい文化」 | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

「呼吸と声の力──Creepy Nuts大阪公演から学ぶ、日本の息づかい文化」


今年の7月、Creepy Nutsの大阪公演に足を運ぶ機会がありました。普段、公演に参加することは少ない私にとって、それはまさに特別な経験。R指定さんの語りと歌、ヒップホップのビートが交錯するあの空間の余韻は、今も体の奥で響き続けています。


なぜ、この感動がこれほどまでに長く心に残るのか——斉藤孝先生の著書『呼吸入門』を読み返す中で、その理由のひとつに気づきました。歌舞伎役者、落語家、能楽師、狂言師……日本古来の伝統芸能には、息を長く、途切れず、朗々と声を響かせる文化が根付いています。観客もまた、その声に呼応し、共鳴する。


R指定さんのステージは、現代の狂言師や能楽師に例えることができるほど、声の伸びやかさと共鳴力に満ちていました。大阪城ホール全体がひとつの声で溶け合ったあの瞬間は、まさに現代に甦った“息を合わせる文化”そのものだったのです。


考えてみれば、日本人のDNAには、昔から声を合わせて行う活動が刻まれています。農作業での掛け声、祭りでの神輿担ぎ——各人の力を超えて、集団の力を最大限に発揮するための仕掛けであり、同時に楽しみでもありました。


ヒップホップという現代音楽の舞台で、それが再現されたことに、私は深い感動を覚えました。音楽のジャンルは違えど、息を合わせる喜び、声を響かせる楽しみは、古今東西を超えて人の心に届く——そんなことを改めて教えてくれた一夜でした。