映画「悪い夏」と我が国の生活保護制度の問題点 | 大阪の弁護士•長野智子(智聖法律事務所)

映画「悪い夏」と我が国の生活保護制度の問題点



先日、映画『悪い夏』を鑑賞しました。社会の影に追いやられた人々の姿を通じて、私たちが普段見て見ぬふりをしてしまう「貧困のリアル」を直視させられる作品でした。特に、生活保護制度を巡る描写が印象的で、日本の制度が抱える問題点について深く考えさせられます。そして、生活保護の問題が社会的にクローズアップした機運を受けて、今夜からふた晩連続で、NHKで以下の特番が放映されます。





1. 生活保護は「最後のセーフティネット」なのに



映画に登場する人々は、日々の生活に困窮しながらも、役所の窓口で冷たい対応を受けたり、周囲の偏見にさらされたりします。本来、生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度であり、憲法25条に基づく重要な権利です。しかし実際には「怠けている人がもらうもの」という誤解が根強く、申請すること自体に強いハードルがあります。



2. 行政の「水際作戦」と排除の現実



映画でも描かれるように、窓口で申請を受け付けない、親族への扶養照会を盾にして制度利用を遠ざける――こうした実態は現実の日本でも問題視されています。本来は「困窮している人に速やかに支援を届ける」ことが目的の制度なのに、予算や人員不足、そして制度への偏見が重なり、「利用できる人が利用できない」という逆転現象が起きています。



3. 「自己責任論」の影



生活保護を受けることに対するスティグマ(社会的烙印)も大きな課題です。映画の登場人物たちが肩身の狭い思いをしながら日々を生きる姿は、まさに現代社会が「貧困は個人の努力不足」とみなす冷酷な視線を象徴しています。しかし、失業や病気、家庭環境など、誰もが避けられない要因で生活困窮に陥る可能性があります。「悪い夏」は、そのことを観客に突きつけてきます。



4. 制度はどう変わるべきか



映画をきっかけに考えると、生活保護制度の改善にはいくつかの方向性が見えてきます。


  • 扶養照会の廃止・縮小による迅速な支援
  • 相談窓口の人員増強と相談員の研修強化
  • 「生活保護は権利」という認識を広める啓発活動
  • 生活困窮者自立支援制度など他制度との有機的な連携



単なる「施し」ではなく、「誰もが利用できる権利」として制度を再構築する必要があるのです。



5. 映画から現実へ



『悪い夏』はフィクションでありながら、観客に「これは映画の中の話ではなく、自分の隣で起きている現実だ」と思わせます。生活保護制度の問題は、決して一部の人の問題ではありません。明日の自分、そして家族や友人の問題にもなりうるのです。


私たち一人ひとりが、この制度を「社会の大事なインフラ」として理解し、偏見や誤解をなくしていくこと。その意識の転換が、映画が投げかける大きな宿題だと感じました。