カランカランと鐘が鳴る。それと同時に机に向かっていた生徒たちは緊張の糸が切れたようにふっと息を吐いた
後ろから回されてくる答案用紙の束の上に自分の答案用紙を重ね前へと送りながら私は1人重い雰囲気を醸し出していた
教師がそれらを集め教室から出ていくと、生徒たちは皆思い思いに立ち上がる。私の前の席の友人も疲れた笑顔で振り返り、私の落ち込みように「げ………」と言いたげな顔をした
「芽衣、どうしたの?たかがテストでそんな顔しちゃって……」
「賭けに負けた‥…」
「え?うーん、よく分からないけど、終わっちゃったものは仕方ないって。ね?ね?」
慰めてもらっているのは分かる。しかし彼女は分かっていない。今からが大変なのだ
「うん‥……帰るね。バイバイ」
「ばいば~い………」
結局元気を取り戻すことなく、とぼとぼと教室を後にする私を友人は心配そうに見送ったのだった
校舎から出ると、帰宅する生徒たちが澄んだ青空を箒で飛び交っていた
この国には魔法を使える者が稀に存在する。この国特有のそれは血統に依存するらしく、貴族ほどその割合が高い
私の家は代々神官の家系であり、私はその次代当主だ。もちろん魔法は使える。学校での魔法の実技の成績はかなり良く、それとは対照的に今日みたいな筆記の試験になるとすこぶる悪い
『君には常識ってものが備わってないんだよ』とある人に言われるくらい。その人と今日のテストに関して賭けをしたのだが見事に玉砕してしまい、鉛のように重い気分で旗がはためく城の方へと歩いていた
城の門の前に着くと門番たちは私に敬意を示してから門を開けた。広い庭の中を進みその一角にある薔薇のアーチでできたトンネルをくぐっていく。緑色のトンネルをくぐり終えると猫の細工が施された扉が現れる。それを押し開けると薄暗い廊下が続き、やがて自分の部屋に辿り着いた。制服を脱ぎ神官の服に着替えてからまた廊下を進む
長い。長すぎる。どうして神殿の正面から入れないのか。正面から入ることは一応できるのだが、普通の人の為に設けられたその入り口からでは奥まで行けない。わざわざお城を経由しなければならず、何度学校に遅刻しかけたことか
機嫌の悪い私は、この神殿の最奥、祭壇の間の扉を開けてその鬱憤が爆発した
「もーー!!真面目にしてください!!」
「うるさい」
「っ!!っ~~!っ~~!!」
煩わしげな言葉と共に、口を開けない魔法をかけられた。仕返しとばかりにぽかぽかとその人を殴る。殴ると言ってもとても高貴なこの人に怪我を負わせてはいけないので、すごく軽くだけど。でも私の怒りは収まりそうにない。元はと言えばこの人が余計な賭けをふっかけてきたのが悪いのだ
殴り続けていると両手を掴まれて私はその人の腕の中に閉じ込められる。細くて白い指が膨らんだほっぺたをふにふにと摘まむ
「どうしたの、ほっぺたが破裂しそうだけど。悪い病気でももらってきたの?」
「っ~~~~!!」
「何、喋ってくれないと分からないんだけど」
「っ~~~~~~!!!!」
くすくすと笑うこの人に今日は私も適わない。仕方なく怒りを静めてその人に口づけるとようやく魔法が解けた
「…っはぁ、意地悪しないでください」
「だって、君がやかましいから。言っとくけどちゃんと潔斎もお祈りもしたから」
「なら良いですけど……」
私の頬を擽る若草色の髪に触れると先が少し湿っていた。言葉通り、ちゃんとお務めを果たしているらしい
それは良いのだが、これは如何なものか。彼から離れて辺りに散らばった紙を拾っていく。ほぼ1日中祭壇の前にいる彼はそれはそれは退屈していて、お務めを終えた後は絵を描いてばかりだ。すごく上手だから捨てられない。おかげで私の部屋は彼の絵でいっぱいだ。そもそも神様の御前で絵を描いていて罰は当たらないのだろうか
「春草様、もう少し『神の御遣い』としての自覚を持ってください」
そう言うと彼-春草様は不満げに唇を尖らせた
「だって退屈だし」
「はあ…………」
毎度毎度のやり取りにきっと神様も呆れているに違いない
どうしてこの人が神様の声を聞いてこの国の行く末を占う『神の御遣い』なのだろう
どうしてこの人が私の許婚なのだろう
どうして私はこの人のことが好きなのだろう
答えなど出るはずもなく、ただため息を吐いて彼の散らかした絵を集めていく私であった