七月○日 曇り
三男治兄様が手紙を送ってくれた
八月に家へ帰ってくるんだって
兄様に会うのは正月以来だからとても楽しみなんだけど、なんと今回は‥……
婚約者を連れてくる、って書いてあった!
東亰出身の方って書いてあるけど、どんな人なんだろう?
仲良くできたらいいな
兄様にもその婚約者の人にも、早く会ってみたい
八月△日 晴れ
今日やっと三男治兄様が帰ってきた
ずっと楽しみにしてたのに、会った瞬間兄様に『未だに落ち着きがない』とか言われて、少しだけ不満だったけど……
それよりも大事なのは兄様の婚約者のこと
名前は芽衣さんと言うんだって
東京の方と聞いて、大人びた方なのかと思っていたけどとても可愛い人だった
その後、きわ姉様のアレに巻き込まれたのはちょっと不幸だったけど
あまり嫌な顔せずに付き合ってくれたんだから、とても優しい人なんだろうな
八月□日 晴れのち曇り
華道の稽古の帰り道、友人の
芽衣さんに贈るのかな
夕方家に帰ると、東京から帰ってきた為吉兄様と中村先生に会った
芽衣さんに三男治兄様の昔のことをいろいろ話したらしく、『とても興味深そうに聞いていたよ』と中村先生は言ってた
八月X日 雨
今日は準の提案で久し振りに兄妹でかくれんぼをした
三男治兄様がなかなか見つからず、泣き出してしまった芽衣さんを、兄様が慰めたんだけど、とても優しい目をしていた
兄様のあんな表情は初めて見た気がする
……だ、け、ど
2人だけの世界に入ってしまったら、私たちはどうしたらよいのか困る
今度そういう場面に出くわしたら2人をからかおう、と為吉兄様と唯蔵と決めたのは内緒の話
八月▲日 晴れ
どこかに出かけていた三男治兄様と芽衣さんが帰ってきたとき、2人とも髪に花を挿していた
芽衣さんは分かるけど、兄様も案外似合ってた
2人でシラヒゲソウを見に行ったんだって
シラヒゲソウの花言葉を知らないようだったので教えると2人とも頬を赤く染めていた
芽衣さんが挿していた桔梗の簪はおそらく兄様が一昨日買ったものなんだろう
兄様には昔、桔梗の花言葉を教えたことがあったと思うんだけど、もしかして知ってて贈ったのだろうか
芽衣さんには兄様がいないときにこっそり花言葉を教えてあげよう
八月●日 晴れ
今日で三男治兄様と芽衣さんとお別れ
この数日間はとても賑やかでまるで幼い頃に戻ったみたいでとても楽しかった
今度芽衣さんに会えるのはいつだろう、なんて考える私はせっかちなのかな
「ただいまー!」
稽古から帰った私に、居間から廊下に飛び出してきた準。ぎゅっと抱きつく小さな手には何やら手紙が握られているようだ
「ただいま、準。そのお手紙どうしたの?」
「あのね、芽衣お姉ちゃんから手紙が届いたの」
「まあ、良かったじゃない!」
東亰に帰ったら手紙を書く、と芽衣さんが言ったのはもう1ヶ月も前のことだ
「何て書いてあったの?」
家に上がり、廊下を歩きながら尋ねると、準は手紙を広げた
「えーっとねー。花火をミオ兄ちゃんとおうがいさん?って人と一緒に見たんだって。すごく綺麗だったよって書いてるの。いいなぁ私も花火見てみたい」
鴎外さんって確か三男治兄様と芽衣さんがお世話になってる人だったよね。『いつもお世話になってるから感謝してるし尊敬もしてるけど、時折ついていけない。饅頭茶漬けとか行水とか……』と以前送ってくれた手紙にそう書いてあった
「花火かぁ…私も見たことないな~。他には?」
「あと、きわお姉ちゃんにもらった着物を着て簪を挿してみたら、ミオ兄ちゃんに絵のモデルを頼まれて困ったんだって」
『嬉しい』ではなく、『困った』と書いているということは、おそらく、というか間違いなく、三男治兄様の
「『準ちゃんからのお手紙待ってます』だって。私も早く書かなきゃ」
「そんなに急がなくても手紙は逃げないわよ」
なんて言いつつ、居間に入ると卓袱台の上には大きな紙が広げられていた。どうやら絵のようだ
「この絵どうしたの?」
「三男治が送ってくれたのよ」
お茶を持ってきてくれた母様が嬉しそうに言う
近づいて見てみると、私たち家族が食卓を囲んでいる風景だった。父様、母様、為吉兄様、きわ姉様、三男治兄様、私、唯蔵、準、そして芽衣さん。きわ姉様とは一緒にご飯を食べる機会がなかったのにこの絵の中にはちゃんと入っている。そんな所に兄様の優しさを感じた
「ねえねえ、お姉ちゃん」
絵に魅入っていると、準が私の着物の袖を引っ張った
「芽衣お姉ちゃんにお手紙書くから便箋ちょーだい」
「はいはい」
母様が出してくれたお茶を一気に飲み干すと、準を私の部屋に連れて行った。便箋を受け取った準がいそいそと筆を走らせる横で、私も机の引き出しから日記を取り出し、筆を執る
「さて、私も今日の分を書こうかな」
九月◎日 晴れ
華道の先生が珍しい花を見せてくれた
この辺りではあまり見かけない『
東亰にいる兄様達のことを考えながら家に帰ると、準に宛てて書いた芽衣さんの手紙と三男治兄様から絵が届いていた
今にも話し声が聞こえてきそうなほどの楽しそうな光景-それは私の自慢の家族の絵
紫苑の花が運んできてくれたんだと思った
~私と彼と夏休み 終~