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novels by naecha

「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください

真っ赤に染まった紅葉が川面を埋め尽くす秋の京都。両岸の燃えるように真っ赤な木々も雅な雰囲気を醸し出している
「春草さん!見てくだ‥うぐっ!」
隣に座っている春草さんを振り向きかけると、襟を思いっきり後ろに引っ張られた。そのあまりの勢いに、一瞬息ができなかったほどだ
「君、川で泳ぎたいの」
「すみません」
「まったく‥」
春草さんがやれやれとため息をついている間もたくさんの紅葉がひらひらと舞い落ちては川を流れていく





春草さんと京都旅行

旅行と言っても彼には写生旅行という意味合いが強いのだけど
「良かったら君も来る?」と訪ねられて間髪入れずに「はい!」と答えた私は京都は初めてだ。もしかしたら、行ったことあるかもしれないけど記憶がないから分からない
それに平成と明治じゃ町の様子も違うだろうし……などと思っていた私は京の都に降り立って感動した
五重塔がそびえ立ち、神社やお寺がたくさんあって舞妓さんがしずしずと歩く様子は、現代のテレビで見た(であろう)京都と全く同じだった

そして___






初めての彼との旅行と言うこともあり、テンションが上がった私は…‥…

いろいろやらかしてしまった

八ッ橋のお店に入り浸っていたら彼に置いて行かれたり(だって美味しかったんだもん)

清水の舞台から「やっほー!」と叫んだら『俺はこんな子とは無関係だ』とでも言いたげな顔で彼に置いて行かれたり(だってやってみたかったんだもん)

懐石料理に舌鼓を打っていたら彼に奇怪な目を向けられたり(…これは今さらな気がする)


はしゃぎまくっていた私だけど、彼が絵を描いているときは傍で大人しく隣で眺めていた。八坂神社とか、平安神宮とか、鴨川とか。どこもかしこも真っ赤で本当に綺麗だったし、春草さんの手によって生み出される絵も負けないくらい綺麗だった





そして今、私たちはのんびりと川下りを楽しんでいる

「綺麗ですね。まるで紅葉が川を染めているみたいです」
見たままをそのまま口に出しただけだったんだけど、春草さんは感心したように相づちを打ってくれた
「昔の人も紅葉が川一面を真っ赤にして流れている様子を紅葉が川の水を染めたように見立てていたけど、君もそう思うんだ」
珍しく春草さんが褒めてくれた。そのことに嬉しさを覚えて顔がにやけてしまう
「君と風流なんて一番似合わない組み合わせなのに」
褒められたと思った瞬間に貶された
「…………それって馬鹿にしてます?」
頬を膨らませると、春草さんの隣に座っている人がくすくすと笑った。品の良さそうなおばあさんだ
「いけずな兄はんどすね」
目を細めて笑うおばあさんは京都の人らしく、はんなりと柔らかい口調で言葉を紡いだ
「いけず…?」
春草さんは『いけず』の意味が分からず首を傾げていたが、私はおばあさんに向けて大きく頷いた
「そうなんです。この人、すごくいけずなんです」
「君、分かって言ってるの」
「はい、知ってますよ。『意地悪』っていう意味です」
言った後で私は激しく後悔した。春草さんの口角が妖しく上がったからだ
「ふうん…まあ、否定はしないけど」
そう言ってにやりと笑う彼に、この後意地悪されそうな気がしてならない
彼の視線から逃げるようにおばあさんの方に視線を移すと、微笑ましそうに私たちを見つめていた
「ほんまに可愛らしいお2人だこと。若夫婦でいてはりますやろか?」
「若夫婦!?」
一瞬にして顔が沸騰したのが分かる。そっと春草さんの顔を見上げると、彼の耳も紅葉に負けないくらい真っ赤だった
「い、いや、私たちは、夫婦じゃ…」
しどろもどろになりながら訂正すると、おばあさんは申し訳無さそうに眉を下げた
「うちったら早とちりしてもて…かんにんしておくれやす」
「いえ…………
 あ、あの、紅葉が綺麗ですね」
そう言いながら岸を指さした


船に乗る前に少し歩いてみたけれど、雨のように紅葉が降る様はまるで夢の世界に迷い込んだみたいだった。もちろん、春草さんも大満足で私をモデルにして絵を描いてくれたのだが……
画家モードに陥ってしまって、とにかく大変だったとだけ言っておく



「ええ、ほんまに。ここら辺も綺麗どすけど嵐山ん方もええ感じに紅葉したはるさかい、行ってみたらよろしおす」
嵐山と言えば、平成の世でも紅葉の名所として有名だったけど、明治でも同じらしい
「春草さん、行ってみましょう」
春草さんにおねだりしてみると、彼は難しそうな顔をした
「無理だよ。ここから遠いし着く頃には日も暮れて真っ暗だと思うんだけど」
「えー…でも、夜の紅葉も綺麗だと思いません?」
あ、でもそれはライトアップした場合の話だ。たぶんこの時代だったら春草さんの言うとおり真っ暗で何も見えないかもしれない
「夜に行かはるんはやめよし」
何故かきっぱりとした口調でおばあさんが言った
「やっぱり夜だと何も見えないからですか?」
私が尋ねると、怖い顔をしたまま首を振る
「京には昔から鵺ちゅう物ノ怪がおるんです」
「鵺?」
「頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎。夜になるともの哀しげな声で吠える不気味な鳥どす」
頭の中で姿を想像してみると、何とも不気味な生き物ができあがった。私の想像力が逞しすぎるせいかもしれないけど、とにかく不気味としか言いようがない
薄ら寒さを感じて、春草さんに寄り添った
「……怖いですね」
「そないに不安に思わんでもよろしおす」
私が頷くと、張りつめていたおばあさんの顔が私を安心させるかのように少し柔らかくなった
「うちかて京に長い間住んでるけど、いっぺんも見たことあらしまへんさかい。それに、紅葉はやっぱり昼が一番どす」
おばあさんがにっこり笑ったちょうどその時、船が岸に着いた
「ほな、さいなら」
丁寧にお辞儀をして去っていくおばあさんに私もお辞儀を返して見送った。おばあさんの姿が降りていく人々の中に消えていった頃、ずっと静かだった春草さんが口を開いた
「あのさ、いつまでそうしているつもり」
「え?」
「ずっと踏んでるんだけど」
そう言って視線を下に向ける彼に倣い私も顔を下げると、彼の羽織の裾の上に私が乗っかっていることに気がついた。彼に寄り添った際に巻き込んでしまったらしい
「すみません」と謝って勢いよく立ち上がると、船が傾いた
「わっ!」
バランスを崩してしまった私の腕を春草さんが掴んでくれたおかげで、川に落ちるようなことはなかったが
「君って本当にそそっかしいね。立つだけで転びそうになるなんて」
「すみません」
彼は呆れたようにため息をこぼすと、立ち上がり私の手を握ったまま歩き出す
「あの、春草さん?」
「転んで川に落ちられても困るから」
素っ気ない口調だけど、握るその手は優しくて、船から降りるときも私の手を引っ張ってくれた
「ありがとうございます」
素直にお礼を言ったら返ってきたのは嫌みだった
「礼を言う前にそそっかしいのを直したら?」
「……………」
「何、言いたいことがあるならちゃんと言いなよ」
「しゅ………」
「聞こえないんだけど」
春草さんを見上げて、私は大きく息を吸った





「春草はんはいけずどす!」



そう叫ぶと、春草さんは私に背を向けた。しばらく無言のままだったが、次第に肩が小刻みに震えだした
「く、………はは、はははは………」
春草さんの正面に回り込むと、私と目があった彼はますます笑い出した
「もう、そんなに笑うことないじゃないですか!」
『方言-特に京言葉を話す女子は可愛い』と平成の世で得た知識を勇気を出して使ってみたのに、何故か爆笑された
「ははは、ご、ごめ、はは‥‥‥」
笑いを収めようにも、私の顔を見る度にぶり返してくるらしく、しばらくの間笑われ続けた。人の顔を見て笑うなんて失礼だと思うけれど、彼の爆笑する姿なんて初めて見たし、もう二度と見れないぐらいレアだと思うから黙って見ていた
ようやく笑いが収まってきた頃、ちゃんと謝ってくれた
「ごめん、君って本当に突拍子もないことをするから面白くて」
「面白さを狙った訳じゃないんですけど」
自分の思った通りの結果にならなかったのが少し悔しくて拗ねたような声になった
「じゃあ、何を狙ったの」
……この質問には答えられない。まさか『可愛い』って思ってほしかったなんて私の方からバラすのは恥ずかしい
「と、特に何も‥‥‥」
そう誤魔化して俯くと、上から彼の声が降ってきた
「ま、可愛かったけど」
「!?」
私が顔を上げる頃には彼はすでにそっぽを向いていて、「行くよ」と少し強引に私の手を引いて歩きだした。けれど、その耳が赤く染まっていたのを見て、私も頬を染めながら少し嬉しく思った

             ~つづく~