novels by naecha -13ページ目

novels by naecha

「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください

ビュウビュウと時折吹く夜の風の音に私は目を覚ました。もちろん外は真っ暗で、カサカサと木々が風に吹かれる音も聞こえてくる
(なんだか、不気味………)
自分の身を守るように、布団の中で縮こまったその時、『ヒィ‥ヒィ‥』ともの哀しげな鳴き声が風の音に混じって運ばれてきた
ガバッと布団から起き上がると、鳴き声は聞こえなくなったが、しばらくするとまた『ヒィ‥ヒィ‥』と聞こえてくる



__京には昔から鵺ちゅう物ノ怪がおるんです



昼間聞いたおばあさんの声が甦る
「しゅ、春草さ………」
隣で寝ている彼の方に手を伸ばし…………


誰もいないことに気がついた



「え、春草さん!?」
布団はもぬけの殻。狭い部屋の中を見回しても彼の姿はどこにもない
まさか、鵺にさらわれたのだろうか
「や、やだ……」
布団を握りしめた私を更に怯えさせるかのように、『ヒィ‥ヒィ‥』と哀しい鳴き声。今度はそれに混じって『ギシッ』と言う音も混じる。まるで何かが廊下を歩いているような音だ



ヒィ‥ヒィ‥…ギシッ………ヒィ‥ギシッ………



足音がだんだん私たちの部屋に近づいてくる
今度は私をさらいに来たんだ、と怖くなった私は頭から布団をかぶってじっと耐えた
この部屋をさっさと通り過ぎてほしい、という私の願いも虚しく足音はこの部屋の前で止まり、襖を開ける気配がした
ゆっくりと畳を踏みしめる音が近づいてきて、私はぎゅっと目を瞑って息を殺していた



「……………芽衣?」
「え?」
聞き慣れた優しい声がして布団から恐る恐る顔を出すと、心配そうに私の顔をのぞき込む春草さんがそこにいた
「春草、さんですか?」
「俺じゃなかったら他に誰がいるの。君、寝ぼけてる?」
かすかに眉間にしわを寄せるその姿は、紛れもなく春草さんだ。安心した私に今までの恐怖がわっと押し寄せてきた
彼に思いっきり抱きつくと、勢いが良すぎて彼もろとも倒れてしまったけれど。そんなことに構っていられるだけの余裕は今の私にはない
「いきなり何」と咎めるような口調で言いかけた彼は、私の体が震えていることに気づいて、戸惑いながら私の背中に手を回した
「どうしたの?怖い夢でも見たの?」
幼子を宥めるかのように背中をさするその手つきが優しくて、涙が溢れた
「夢じゃなくて、さっき……」
鵺の声を聞いたんです、と言おうとした私の声を遮って、再び『ヒィ‥ヒィ‥』と声が聞こえてきた。ぎゅうっと彼の浴衣を握りしめる
「い、今…鳴き声が……鵺が…」
「芽衣、落ち着いて」
「む、無理です!怖い!」
どうして春草さんはこんなにも落ち着いていられるのだろう
「春草さんには聞こえていないんですか」
「聞こえてるけど。芽衣、俺の話をちゃんと聞いて」
そう言って私の顔を上げさせた春草さん。真っ直ぐ私を射抜く視線を受け、ぐちゃぐちゃだった心が次第に落ち着いていく
「あれ、鳥の鳴き声だから」
「え、鳥?」
「そう。トラツグミっていう鳥。まあ、『鵺鳥』とも言うらしいけど」
物ノ怪の正体がまさか鳥だったとは。呆気ない結末に呆然としていると、春草さんのため息が私の頬にかかった
「君、昼間の話を本気にしたんだろ」
「だって、あの鳴き声、すごく不気味で怖くて………
 それに春草さんがいなくて、さらわれたんじゃないかと」
そう訴えると春草さんは気まずそうに目をそらした
「ごめん、厠に行ってただけだったんだけど‥
 君を怖がらせて本当にごめん」
春草さんがいなかった理由も呆気ないものだった。私一人が勝手な思い込みをして怯えていたのだと思うとどうしようもなく恥ずかしい
「ごめんなさい……」
「謝る前にそそっかしいのを直したら?」
昼間と同じようなことを言われ、私は彼の上で身をすくめた

春草さんの上から離れ、自分の布団に入った私
背を向けて目を瞑っていると、彼も私の布団に入ってきた
「え?春草さんの布団はあっち‥」
「知ってる」
戸惑う私をよそに、お腹に手が回される
「君のことだから怖くて一人じゃ眠れないんじゃないかと思って」
確かに彼が傍にいてくれるとすごく安心する。けど、心臓がバクバクして別の意味で眠れない
「ええと、確かに怖くはないですけど……逆に緊張するというか何というか……別に嫌とは言ってないですけど………
 春草さん?聞いてます?」
首をひねって後ろを向くと、目を閉じている彼が目に入った。どうやら寝てしまったらしい

彼の腕の中で寝返りを打って彼と向き合う姿勢になった
「おやすみなさい」
そう言って私は彼の唇に自分のそれを、ほんの一瞬だけ重ねた
我ながら大胆なことをするなぁと思いつつ顔を離すと、
ぱっちりと目を開けた彼の顔。眠気なんて微塵も感じられないその瞳の中に、呆然とした顔の私が映っている
「…………………え?」
うっすらと満足気な笑みを浮かべる彼に嵌められたんだと気づいた
「い、いや、さっきのは、………そ、その………
 …そ、そう!夢です!夢だということにして下さい!!」
「俺、何も言ってないけど」
「そうですけど、その……」
なおも言い募ろうとする私の口は彼の手によって塞がれた
「そんなに大きな声を出してたら隣に聞こえるよ?いいの?」
そうだ、私たちの部屋の両隣にもお客さんたちが泊まっているのだった。大声を出して起こしてしまったら申し訳ないし、もし聞こえていたとしたら……なんて想像したくもない
大人しく小さく頷いた私に、「いい子だね」と満足そうに微笑んだ彼
「いい子には、ご褒美をあげる」
彼の手で塞がれていた口は、彼の唇で塞がれた

京都の夜___

いけずで甘い時間はこれからだ







               ~終~